シャクジの森で〜番外編〜

「っ、あぁ・・・手は、城の医官が叱りながらも丁寧な治療をしてくれたよ。だから、もう大分良いんだ。あの時はすまなかったね」



急に話題を変えられ戸惑いながらも、明りに照らされるように、ガーゼの貼られた掌を開いて見せると、サリーの眉が小さく動き、やっぱり大怪我だったんだねぇ・・と呟いた。


いいんだ、これくらいは。

あのときは、君に怪我がなくて、本当に良かったのだから。



それから暫くの間、店のことやスミフのバイオリンのことなど、面白おかしく話すのを聞いていると、背後に人の気配を感じ始めた。

動かずに、じっとこちらの様子を窺っている。

タイミングを計っているような・・・。

最初は、執事が来たのかと思ったが、この気配は我が屋敷の者ではない。



「―――そこにいるのは、誰だ?」


サリーの身体を庇い、何時でも動けるよう心構えをしつつ誰何すれば、急いで出てきた者が、深々と頭を垂れた。



「申し訳ありません。スミフで御座います。娘を迎えに来たのですが、声をかけづらく思っておりました」

「・・それは、すまなかったね。話が楽しく、つい夢中になっていた。演奏の後、皆に囲まれていたが、もう静まったのかい?」

「はい。娘が待っているからと、強引に抜けて来ました。そろそろ暇をしようと・・・」



そう言ってくしゃりと笑うスミフ。

話は、何処から聞いていたのだろうな。



「そうか。また、演奏を聞かせてくれるかい?」



スミフは無言のまま曖昧な笑顔を見せた。

出来ればもう勘弁してほしい、そう読みとれるのは、気のせいじゃないだろう。

恐らく、今回が聴きおさめ、だったのだ。

そうなると、サリーのダンスも、見おさめだったのか。



「・・・あ、ねぇ。アンタ、そろそろ戻った方がいいんじゃないのかい?みんなが待ってるよ」

「―――あぁ、そうだな。戻らなければ・・・君達は、気を付けて帰ってくれ。今夜はご苦労様」



別れを言って二人を残し、庭を後にする。

名残惜しく思うのは、スミフのバイオリンの音か、それとも―――・・・。



広間に帰る途中にいた執事に、二人が帰る旨を伝える。

すぐに馬車が手配されるだろう。

広間に戻れば、ダンスの最終の曲が奏でられていた。

曲が終わり、皆の愉しげな歓談が終わらない中、終宴を告げる挨拶を始める。



「お集まりの紳士淑女の方々、今宵は良い趣向もあり多分に愉しめた事でしょう。楽しい時間はとかく早く過ぎてしまうものです。皆が名残惜しいと感じる中―――・・・・」