シャクジの森で〜番外編〜

こんもりと茂った庭木が小道を作る庭。

丹精込めて手入れされた花壇を照らす灯。


月明かりがたまに陰り暗くなる中、向かう先に、赤毛の女性が佇んでいるのを見つけた。


ゆっくりと花を眺めながら歩き、今は、傍にあるベンチに座ろうとしている。



「お嬢さん・・・庭は、気に入ったかい?」



座って落ち着いたところを確認し声を掛けると、こちらを見上げたサリーの瞳が大きく見開かれ、唇が僅かに動いた。



「―――っと。そのまま座っててくれ。君と話がしたいんだ」



懸念した通りの行動を、急いで止める。

全く、困ったものだ。



「あー・・すまないが。隣に座っても、いいかい?これでは話し難い」

「・・・どうぞ」



隣に座れば、サリーの膝の上で、細い指先が所在無げに動くのが目に入った。

緊張してるのか、警戒してるのか、それとも・・・嫌がってるのか。



「・・・サリー。こちらを、向いてくれないか?」

「あ・・・あのさ、今日は、いい天気だね・・。あぁほら!月が、綺麗だよ。この庭も、すごく綺麗で気に入ったよ。やっぱり、お屋敷のお庭だねぇ。手入れが行き届いていて、花が生き生きしてるよ。私の店先にある植木鉢じゃ、とても敵わないね・・・」


「サリー、こちらを向いてくれ。目を見て話をしたい」

「あ・・私・・今日はスミフにきつく言われてるんだよ。屋敷に着いたら、お前は何も話すなって。ほら、私、こんな風だろ?だからさ―――」



上を向いたり、下を向いたり。

サリーの腕も頭も自在に動くが、一向に此方を見ようとしない。

そわそわしているようなのは、やはり慣れない場所だからだろうか。

帰りたいと思うのも、そのせいか―――



「それは、私には今更なことだ。気にしなくていい。サリー・・いいから、ほら、こちらを見て―――」



私は、君を傷付けたりしないから。


上へ下へ。


落ち着きなく動く手。握手をしてくれないか・・?と、断ってからやんわり重ねて捕まえる。

と。ようやくこちらを見てくれた。


少し潤んだ魅惑的な瞳が、物言いたげに揺れ動いている。

少し強めに握っても、振り払われないのは、幸運だと思っておこう。




「今日は、よく来てくれたね。礼を言わせてもらうよ。素晴らしいダンスだった。君の父上のバイオリンも―――近年になく、思い出深い、良い夜になったよ。君のおかげだ」



あのリズム感は、流石音楽家の娘だね。


そう言うと、サリーはふわっと笑った。

誰もが美しいと思える笑顔。


何故だかそれが、儚く見えた。