シャクジの森で〜番外編〜

「警備、ご苦労。ダンスを披露した赤毛の女性がここを通らなかったかい?」



広間の出入口で問えば、そのお方なら随分前にここを通りましたという答えが返ってきた。


「何か言ってなかったか?」

「はい。先に帰るからと、楽士への言付けを受けております」


・・・やはり。


「随分前とは、何時だ」

「あ・・楽士の2曲目が始まったすぐ後の頃で御座います!」



焦る気持ちを押さえつけつつ声を出せば、思ったよりも低くなってしまった。

警備がうろたえた表情を見せ、ピシリと姿勢を正す。



「一人だったか?」

「はいっ、確かにお一人でした!」



あぁ全く、何てことだ。

ここから西通りまで距離としては結構近い。

彼女のことだ、個人馬車を呼ぶことなく徒歩で帰った筈だ。

追いかけるか?


あーいやいや、ひとまず、落ち着こう。


この夜に、女性を一人で帰すなどは我が屋敷の者が許す筈がなく、彼女が“帰る”と、どれだけ騒いでも、必ず止める。

特に、彼女には身内である連れがいるのだから、当然一緒に帰るよう計らう。


となれば、だ。


探せば必ず何処かにいる。

要所ごとに立つ使用人や警備に訊ねながら姿を探していけば、前方から歩いてきた執事がスススと走り来て、ニコリと笑ってこう言った。



「ダンスをご披露された女性をお探しで御座いますね?帰りたいと仰っておられましたが説得致しまして、今は庭を散策しておられます」



ふむ、外か・・・。

所在がわかり安心すると、ふと、市場通りであった私とのやり取りや城での様子などが思い出され、思わず笑みが零れる。

彼女は、基本的に、言うことを聞かない。

・・・説得か。



「・・・よく、止められたな?」

「はい。少々苦労致しました」

「だろうね・・。暫く場を離れるが、終了までには戻るよ。良いものを見せてもらった。彼女に、礼をしてくるよ」

「承知致しました」




頭を下げる執事に手をひらひらと振って玄関に向かう。

私の姿を見て、逃げないといいが。



「まぁ!パトリック様、どちらに行かれるのですか」



玄関扉を開こうとすると古参の侍女に見つかり、ホスト様は会場にいなければなりません、との小言を貰った。

それは分かってるが・・・。



「ワインに酔ったんだ。少しばかり風に当たってくる。すぐに戻るよ。執事にも言ってあるから」



侍女にも、微笑みながらひらひらと手を振って見せ、外に出た。


冷たい夜風が、ワインで火照った頬を撫でていく。

噴水の辺りには愛を語らう者や、夜風に当たる紳士達の姿がちらほらとあった。

私に気付き立ち上がる者もいたので掌を見せて制しておく。


さて、彼女は何処にいるのか。