期待と緊張感が広間を支配する。
しーんと静まりかえった空気は、中央にいる二人の息遣いまでもが聞こえてきそうなほどにピンとはりつめている。
スミフがバイオリンを構えたのを見、す、と姿勢を正し腕をしなやかに伸ばし上げたサリーが、カツン・・と踵を鳴らすとバイオリンの一音が鳴り響き、音符が溢れるように流れ出した。
たった一つの楽器、ただ一人の楽士。
なのにかかわらず、まるで合奏してるかのような豊かな音に圧倒される。
これが、スミフ・アリーの音なのか。
表舞台から退きかなりの年月が経っているだろうに、これほどに人の心を揺さぶるとは。
子供の頃に聴いたのとは違う情熱的な旋律と、それに合わせたサリーのダンス。
これは求愛のダンスなのだろうか。
伸ばされた指先からも、翻るドレスの裾からも、身体中から熱が伝わりくるような激しさを感じる。
実に魅力的で、観る者すべての心を絡め取っていく。
こんなに良いものが観られるとは、シンディに感謝をしないといけない。
カツン!と踵を打ち鳴らし、ふわりと上がっていたサリーのドレスの裾がゆっくりと足元に落ちていく。
と同時に、スミフのバイオリンも最後の一音が伸びやかに広がり、場内に余韻を残す。
息をするのも忘れるほどに見惚れていた皆から、ため息混じりのどよめきが起こり拍手が一つ二つと鳴り始め、最後には称賛の声と拍手の渦となった。
二人のそばに近寄ると、サリーの頬は紅潮し息が上がりつつも皆に笑顔を見せ、礼をとっていた。
大変素晴らしいものを見せてもらったと、感謝の気持ちを込めて握手を求めれば、スミフは顔をくしゃりとさせて笑みながら応じた。
初めて触れる、ゴツゴツとした手。
これが、職人のもの。
この太い指が、良い楽器を作り、繊細な美しい音色をうみ出すのだ。
「貴方の演奏は、子供の頃父と一緒に聴いたことがあるんだ。城の貴賓館で―――・・・。できれば、あの時の曲をひとつ聴かせてもらえないだろうか。穏やかな曲調だったものだが」
「・・・はい、あの時の演奏曲と言えば・・確か時の代表作“森の声”でした。シャクジの森をイメージし、あの演奏会の為に私が作ったものです。覚えておられるとは、光栄です。・・・が、あのときと同等の音色はもう出せません」
「あぁ、構わないよ。是非、聴かせて欲しい」
もしやスミフ自身が構うのか。
暫しの沈黙が互いの間に流れる。
その道を極めた者には、プライドがあるものだ。
ましてや、世界に名を知られた者であれば尚更に、万全でないことを避けるのだろう。
「承知致しました。では、貴方様の為に、できうる限りの演奏を―――」
しーんと静まりかえった空気は、中央にいる二人の息遣いまでもが聞こえてきそうなほどにピンとはりつめている。
スミフがバイオリンを構えたのを見、す、と姿勢を正し腕をしなやかに伸ばし上げたサリーが、カツン・・と踵を鳴らすとバイオリンの一音が鳴り響き、音符が溢れるように流れ出した。
たった一つの楽器、ただ一人の楽士。
なのにかかわらず、まるで合奏してるかのような豊かな音に圧倒される。
これが、スミフ・アリーの音なのか。
表舞台から退きかなりの年月が経っているだろうに、これほどに人の心を揺さぶるとは。
子供の頃に聴いたのとは違う情熱的な旋律と、それに合わせたサリーのダンス。
これは求愛のダンスなのだろうか。
伸ばされた指先からも、翻るドレスの裾からも、身体中から熱が伝わりくるような激しさを感じる。
実に魅力的で、観る者すべての心を絡め取っていく。
こんなに良いものが観られるとは、シンディに感謝をしないといけない。
カツン!と踵を打ち鳴らし、ふわりと上がっていたサリーのドレスの裾がゆっくりと足元に落ちていく。
と同時に、スミフのバイオリンも最後の一音が伸びやかに広がり、場内に余韻を残す。
息をするのも忘れるほどに見惚れていた皆から、ため息混じりのどよめきが起こり拍手が一つ二つと鳴り始め、最後には称賛の声と拍手の渦となった。
二人のそばに近寄ると、サリーの頬は紅潮し息が上がりつつも皆に笑顔を見せ、礼をとっていた。
大変素晴らしいものを見せてもらったと、感謝の気持ちを込めて握手を求めれば、スミフは顔をくしゃりとさせて笑みながら応じた。
初めて触れる、ゴツゴツとした手。
これが、職人のもの。
この太い指が、良い楽器を作り、繊細な美しい音色をうみ出すのだ。
「貴方の演奏は、子供の頃父と一緒に聴いたことがあるんだ。城の貴賓館で―――・・・。できれば、あの時の曲をひとつ聴かせてもらえないだろうか。穏やかな曲調だったものだが」
「・・・はい、あの時の演奏曲と言えば・・確か時の代表作“森の声”でした。シャクジの森をイメージし、あの演奏会の為に私が作ったものです。覚えておられるとは、光栄です。・・・が、あのときと同等の音色はもう出せません」
「あぁ、構わないよ。是非、聴かせて欲しい」
もしやスミフ自身が構うのか。
暫しの沈黙が互いの間に流れる。
その道を極めた者には、プライドがあるものだ。
ましてや、世界に名を知られた者であれば尚更に、万全でないことを避けるのだろう。
「承知致しました。では、貴方様の為に、できうる限りの演奏を―――」


