シャクジの森で〜番外編〜

「おい、あの方は、スミフさんじゃないのか?」

「あぁ正にそうだ。私は一度お目にかかったことがあるんだ。バイオリンを持ってるということは、あの方の音が聞けるのか?」

「おぉ何と!信じられない!何て幸運なんだ!」



楽士達や一部の年輩の紳士達の間から興奮した声が聞こえてくる。


―――スミフ・・?


年輩の楽士がスススと中央に進み出て深々と頭を下げた。

その斜め後ろで女性もそれに倣う。

と。

感嘆した様なざわめきがさざ波のように広がっていった。




「こんばんは。初めましてお目にかかりまして光栄で御座います。私、スミフ・アリーと申します。こちらは娘のサリーで御座います」




スミフの紹介を受け顔を上げたサリーと目が合うと、彼女はすぐに俯いてしまった。

やはり嫌われているのだろうか。

しかし、ケーキ作りだけでなくダンスも出来るとは、一般の民にしては多才だと思う。

それにこのような場に出ても、美しさは令嬢達にも負けていない。

話さなければ、だが・・・・・。



「今宵はラムスター様の誕生日ということで、大変喜ばしくございます。妹様のシンディ様からご依頼を受けまして、僭越ながら曲を奏でに参りました。合わせて、我が娘、サリーのダンスもお楽しみ下さい。どうか、ラムスター様には思い出深き良い夜に成りますよう。心を込めまして――――」




スミフ・アリー。

その名をどこかで聞いたことがあると思ったら・・・あの、スミフ・アリーなのか。

バイオリン作りの名手であり、自らも演奏するその音色は柔らかく響き聴く人々の心を癒し“天使の調べ”とも比喩され、国内だけでなく諸外国の王族や貴族方に“是非演奏を”と多く望まれたという。

私も子供の頃にその音色を聴いたことがあるが、よく分からないなりにも感動を覚えたことを思い出す。




“―――どうだ?パトリック。この美しい旋律が理解できるかな?”

“はい、まるで、心の中に天使がいて、体がふわふわと浮くみたいです”

“そうか。分かるか。時期尚早かと迷ったが、連れて来て良かったな―――”



あれは、城の貴賓館で行われた演奏会でのこと。

“心地好い旋律で眠らぬとは、すごいことだぞ”

そう言ってにこりと笑み、大きな手で何度も頭を撫でてくれた。


城での演奏会はあのときの一度きりで、最愛のご婦人が亡くなられてからは表舞台からは姿を消したと聞き、二度と耳にする機会はないと残念に思っていたが。



まさか、今ここで聴けるとは・・

しかもサリーの父君だったとは―――