シャクジの森で〜番外編〜

―――手を、取っていいかい?


一歩近づき、彼女だけに聞こえるよう囁けば、君は少し驚いた様子を見せた後すぐに微笑み、はい・・と小さく返事してくれた。



「感謝の意を込めて―――」



傷一つない、透き通るような白い肌。

優しくそっと握り、か細い指先に唇を落とす。


―――敬愛の意―――


王子妃に対し許される唯一の行為。

長めなのは、私の気持ちの大きさと深さの表れだ。

私はこの先もずっと、陰ながら君を愛し守り続けるよ。



「ぁ・・あの、わたしも楽しかったです。お話もできてよかった。あ――そうだわ。今度皆でゆっくりお茶しましょう。シンディさんもお誘いして。とっておきの紅茶があるんです・・ぁ・・もちろんパトリックさんがお忙しくなければ、ですけど・・・」

「無論。君の誘いとならば、私は無理してでも時間を作るよ。是非とも、実現願いたいな。決めたら連絡してくれるかい?シンディも喜ぶ」

「はい。近いうちに、かならずお茶会を開きます」

「約束だ」



楽しみがひとつできたわ。


そう言って顔を輝かせて微笑む。

この短い時間でいくつもの表情を私に見せてくれたエミリー。

君と過ごす時は、世間一般の世辞や常套句などではなく、心から楽しいと思える。

こんな素敵な女性は、数少ない。

特に貴族界では、仮面を被る者が多い―――



「・・・本当なら。もう少し一緒にいたいところだが、ダンスの約束が溜まっていてね。非常に、残念だが――――・・・アラン、君と“交替”だ」

「・・・パトリック、その言葉は聞き捨てならぬな」



振り向きざまに目に入った、眉を寄せ少しばかりご機嫌ナナメな様子のアランの肩を、宥めるようにポンポンと叩く。

このくらい、言わせてくれてもいいだろう?

いくら私がこの熱い胸の内を伝えようと、彼女の心は君のものなのだから。



―――さて、私はコスタル家の令嬢の相手をしなければ。

目を向けた方には、ソワソワした状態のコスタル嬢を、皆がなだめる姿がある。

手をサッと上げて合図を送る。


忘れていない、今行くよ。




「ぇ・・ぁ・・ぇっと・・アラン様?・・あの、何かあったのですか?」

「・・・君は私の妃ゆえ・・・次は誰と踊るのか、わかっておるか?」


背後から、二人の声が小さく耳に届いてくる。

相変わらずの会話だ、アランが今何をしてるのか容易に想像できてしまう。

恐らく、か細い身体を包み込んでいるのだろう。

見てはいけない、独り身には、大変目の毒だ。



「待たせたね。ダンスの相手を、願えるかい?」