シャクジの森で〜番外編〜

二人で広間の真ん中に進み出ると、アランの周りに人が集まっているのが見えた。

その中には令嬢の姿もある。

そのうち彼も、広間の中心に来るだろう。

今流れてるのはゆったりとした曲調で、さほどステップも難しくないものだ。


いつ見ても綺麗なか細い指先。

私が触れられる機会は、そう多くない。

小さな手をそっと握り腰を支え、優しく丁寧なリードを心がける。



「エミリー、私相手でも緊張するのかい?」

「えぇ、少しだけ―――ダンスはなれてなくて・・あの・・踊りづらくないですか?昨日、アラン様とひととおり練習したのですけど・・・」



練習したのか。

それならば私も呼んでくれれば―――

・・・あぁ、いやそれは駄目だな。

私のパーティのための練習なのだから・・・。

というか、練習したことを私に話すとは、彼女らしいと思う。



「いや、全くそんなことはないよ。この柔らかく軽やかなステップは、君だけの持ち味だ」



震えることはない、もっと自信を持てばいいよ。

そう言うと彼女は、ありがとうございます、と安堵したような微笑みをくれた。


そう。


まだそれほどに場馴れしていない彼女は、こんな時には堅くなりがちなのだ。

何処に行っても注目を浴びダンスに誘われるのは王子妃の常でもある。

特に、彼女は別の意味でも皆の視線を集めてしまう分、二重の圧力を感じてしまうだろう。

彼の先程の言葉“いいだろう”には許可だけでなく“私ならば、任せられる”の意も入ってるのだ。




「でも、よかったわ。パトリックさん、元気そうだわ。わたし・・お会いするまで、ちょっぴり心配していたんです。アラン様に聞いても、“パトリックは変わりない”ってむっすりと言うだけで、ちっともホントのこと教えてくれないのだもの」

「ん―――?」



心配、とは―――?

更に、本当のこと、とは―――??



すぐさま思い当たる事象が数件浮かび上がり、心臓がドキンと波打つのを無視しなるべく平静を装う。

まさか、手の怪我のことを知ってるのか。

それにあの侵入事件のことも・・・。

いつ、分かったんだ?

それとも、別の―――?



目まぐるしく頭を働かせていると、丁度曲が終わったので互いに礼の挨拶を交わし、入れ替わるようにしてアランが真ん中に出ていくのを目の端に捕えつつ、エミリーを隅に誘導した。

ゆっくり話す機会は、今しかない。



「――っと、さっきの話だが。一体何のことだい?心配しなくても、この通り、私はいつも元気だよ」

「え・・そうなのですか?」