シャクジの森で〜番外編〜

「まぁ、珍しいことですわね。何年ぶりのことで御座いましょうか。ほら、私たちも急いで参りますわよ」


そう小声で言いながら娘と共にいそいそと歩いていくのは、アルスター婦人だ。

人波の向こうにアランの姿が現れ、入口付近にいたアルスター殿達と会話を交わしている様子が見える。

王子が放つ威厳はピンとはりつめた空気を広間の中に作り出し、ダンスも歓談も中断させた。

楽士たちも椅子から立ち上がり、広間にいる者全員の視線がそこに集まり居住まいを正す。

勿論、シンディたちも。


婦人が到着したのをきっかけにし、アルスター殿に掌を向け一旦会話を止めたアランは、入口脇にいた執事を呼び何やら耳打ちをしている。

恐らく“構わずに楽を続けよ”と言っているのだろう、にっこり笑った執事が大きく頷き足早に広間の隅を行く。

向かう方向にいるのは、無論、楽士達だ。

再び音楽が流れ始めれば、広間の雰囲気はすぐ元に戻る。



「すまないね。先に、王子ご夫妻にご挨拶しなければ。君達とのダンスは、そのあとでいいかい?」

「えぇ、もちろんですわ。でも、パトリック様?忘れないで・・・一番最初は、この私ですのよ?」

「次は、私ですわ―――あとで必ずお相手お願いしましてよ?」

「約束ですわよ」

「パトリック様、きっとよ?」



方々から艶を含めた声が次々と届く最中、さりげなく身体をしならせつつ私の腕に触れ上目遣いでアピールするのは、私が一番よ?と言ったコスタル家の令嬢だ。

確かに、この中では家柄も一番良く声掛けもこの娘が最初だったな。


徐々に身体を近づけ、日頃から自慢な様子の豊満な胸を寄せて来るのは、私も一緒に行ってご挨拶を・・との、無言な圧力なのだろう。


すまないが、そういうわけにはいかないな。

君は、私のパートナーではないのだから。


微笑みながら、ひた・・と貼りついている手をそれとなく外し、言葉を掛けておく。

コスタル嬢は少しばかり厄介な性格でもあるのだ、後程の火種に成る行為は、出来ない。



「勿論分かってるよ。君達の中では、コスタル嬢、君が一番だね。約束だ。私が戻るまで、大人しく待っててくれるかい?」



君と一番に踊るのは、私だよ。分かってるね?



甘く囁けば、熱の籠った瞳を潤ませて見せ素直に頷いてくれる。

他の令嬢と一緒に、あのまま動かず待っていてくれるだろう。

今は、彼らの元に急がねば。



入口付近を見れば、アルスター殿と話を終えゆっくり動き始めたアランが時折左隣下に目を向けている。

皆の視線から庇うようなそぶりをするのは、そこにエミリーがいるからだ。