シャクジの森で〜番外編〜

あれから、山のように積み上げられていったアランからの書類を黙々と処理し、何事もなく穏やかに時は過ぎていった。

日は明け、今夜は誕生パーティだ。


この年齢だ。

待ちに待った、という言葉が相応しいとはとても言えないが、久しい友人に会えるのは嬉しいことと思う。


毎度のことながら“パトリック様は静かにお部屋に居て下さいませ”と古参の侍女にピシリと言われ、日頃出来ない細々とした用を済ませていれば時間はあっという間に過ぎた。

昼間は屋敷中をパタパタと走りまわり皆が忙しく立ち働き、あれこれと準備に慌ただしかったが夕暮れともなれば落ち着き、料理担当の厨房をのぞけば侍女も執事も今はただ来客を迎えるのみだ。


日が沈み、橙色だった西の空が藍色に変化し辺りが闇に染まっていく。

星が空に瞬き月が柔らかな光を地上に落とせば、もうじきに人が集まり始める。

上空は風が強いのか流れる雲に月が隠れては顔を出し、地上には闇と光が交互に訪れる。


今夜は、随分と冷えそうだな・・・。


昨日よりもぐっと近付いた二つ月は、あと数日も経てば重なり合うだろう。

あの月祭りの日に、エミリーが結んだリンク王と天使シェラザード。

あの日の詳細をアランに尋ねても何故だか未だに話してはくれないが、二人は月に還り、神話の通りに逢瀬を繰り返しているのだ。

二つ月が重なる日は普段よりも月の力が増し、国の守りが強まる気がする。

同時に、愛の力も。

あのときばかりは、この私も、妙に人肌が恋しくなってしまう。

これはリンク王の子孫たる者だけが感じるのかもしれないが。

独り身には、非常に、辛いところだ―――


ふと騒がしい気配に導かれ視線を落とせば、いつもと違う庭の様子が目に入る。

普段は玄関と門にしか点されない灯も、今夜ばかりはあちらこちらに点してあり、屋敷の庭師が丹念に整えた庭も、遅咲きの花が美しく浮かび上がって見える。

きっと来賓の目を楽しませてくれるに違いない。


門扉の外は何台もの馬車が列をなし、着飾った令嬢と紳士たちを降ろしては道の向こうへ消えていく。

次第に賑やかになり、女性の笑い声や男性の話す声が窓越しにもここまで届いてくるようになった。


そろそろ、これを取る時間だな・・・。


自らの手には、未だ包帯が巻かれてあり何とも痛々しげに思える。

皆に訊ねられて説明するのも面倒だというのもあるが、何しろ、今夜はアランと一緒に彼女も来るのだ。

こんなのは、とても見せられないだろう―――