シャクジの森で〜番外編〜

馬車に乗り込み落ち着けば“早く帰ってきてね”と、ぷっくりと膨れた表情を思い出して自然と口元がほころんだ。

やはり帰りを待つ家族がいるというのは、いいものだ。

確かに、結婚すれば毎日がそんな生活になる―――



“お帰りなさい。お食事の用意は出来ていますわ。このお料理、私が作りましたの。お味はどうですか?”

“美味いよ。君は、料理上手だね”



―――花嫁を迎えれば、父君が帰宅するたびに交わされていた会話が、この我が身のものとなる・・。


勿論、私とて愛の溢れる家庭には憧れている。

一人の女性を一生愛し、身が亡びるまで共に生きたいと願う。

今までいろんなタイプの女性と出会い付き合ってきた私だ。

経験だけは、無駄にある。

だからこそ、相手選びには慎重になるのだ。



―――花嫁探しの舞踏会、か―――



そんなものに頼らず自然に出逢いたいと思うのは、最早私の我が儘なのだろうか。

それとも、それさえ開催すれば、エミリーやシンディ以上に大切に思える女性に巡り会えるのだろうか。

私は、どうすればいい―――


ふと。

何気なく見ていた窓の外前方にある物が映り、ハッと思いたち急いで御者に声をかける。



「―――っ、待て。そこで停めてくれないか」

『はいっ、パトリック様。畏まりました!少し揺れますがご容赦願います!』



馬車のスピードが緩んでゆき、すぐにピタリと止まった。

目的の場所を通り過ぎ離れているのは、かなりの速度で走っていたためか。



「急にすまないね、寄りたい場所ができたんだ。ここで、待っててくれ」



馬車を降り、先程目にした方を確認し、その建物に向かう。


まだ灯が点っているとは・・・結構遅くまで開けているのだな。

ここに来るのは、随分と久しぶりな気がする。


そこの扉が開き出てきた人影。

灯の入った看板に手を伸ばすのは、馴染みの店主だ。

暫く見ないうちに、白髪が増えたか。



「―――まだ、開いているかい?」

「あー、申し訳ありませんが、もう閉めるところです。また明日に来てく――・・・あ、貴方様は―――」



看板の灯を消しこちらを見上げ、月明かりに照らされた店主のつぶらな瞳がすー・・と見開かれた。


ラムスター様では御座いませんか、今ご帰宅ですか。と、高級店に相応しい品の良い柔らかな笑顔をくれる。



「久しぶりに寄ろうと思ったんだが。やはり閉店か。明日にした方がいいかな?」

「いえいえいえいえ。とんでも御座いません!どうぞどうぞ、お入り下さいませ」



貴方様のためとならば、朝までも開店致します。

そう言って、店主は看板を仕舞いつつも店の中に招き入れてくれた。