シャクジの森で〜番外編〜

「えぇ、そうね。サリーさんも帰りが遅くなってしまうもの・・・。あ、そうだわ。パトリックさん。おねがいがあるのですけど―――」

「はい。何でしょう」

「サリーさんをわたしの馬車で送って欲しいの。帰りみちが心配だわ。できますか?」

「勿論、出来ます。分かりました。仰せのままに致しましょう」



それを聞いたサリーの慌てふためいた声がする。

遠慮深いのか、ただ目立つのが嫌なだけなのか、頑なに断ろうとする。



「え、王子妃様の馬車って・・あの白いのだろ?いいよ。そんなの困るよ。立派すぎるよ」

「ダメよ、サリーさん。行きもお迎えを拒んだもの。こんどは、わたしの言うことを聞いてください。あなたは大切なお友達だもの、ぜったいにお店まで送ってもらうわ」



きっぱりと言われ、しゅんとしたサリーが「はい」と頷いた。

あぁ、でもせめて個人馬車にしてもらえないかねぇ・・と呟いているが、再びエミリーにピシャリと断られている。


多分、エミリーにとっては、個人馬車では不安なのだろう。

きちんと送り届けたかどうか、確かめ辛いからだ。

私までをも叱り飛ばす彼女が弱いのは、唯一つ、エミリーなのだな。


面白いものだ、こういうところ、アランに近いものがある。



愉しげに話す二人を塔まで送り届け、確認のため、玄関先でサリーに話しかけた。

まだ、断る気があれば、私が送っていくべきだろう。

シンディも一緒だが、あのケーキを作る者だと紹介すればきっと喜ぶ。



「さて、お譲さん。もう観念したかい?馬車の準備ができたら、迎えを寄越すよ。いいね?」

「もうっ、分かったよ。王子妃様の馬車で送られればいいんだろ」

「パトリックさん、よろしくおねがいします」



あの日も、私に送られることを拒みつづけたサリーは、あの時と同じように半ば投げやり気味に承諾をした。

「サリーさん、可愛いわ」と言って、うふふと笑うエミリーと共に階段を上っていくのを見届ける。

無事に済んで良かったな・・・。


ホッとするのもつかの間に、政務塔まで急ぎ戻る。

レスターの報告も聞かねばならないし、今回の件を纏めねばならない。

自らが決めたリミットは近い。

そう―――彼、アランが帰るまでだ―――



長官室まで戻れば、人待ち顔の高官が扉近くに立っているのが目に入った。近付けば丁寧に頭を下げる。


「ご苦労、何かあったのか?」


「はい。パトリック様、シンディ様が王の塔でお待ちだそうで御座います」

「・・・分かった。すぐに、行く」