シャクジの森で〜番外編〜

物には端の方に文字が書かれていた。

肌が傷付いたお陰で汚れてしまった上、余程急ぎ書いたのか実に乱雑なそれに辟易しながらもよく見れば、“お返しする”と書かれていた。

前半部分は文字が滲んでしまい判読できないが、これは“私が避けずに受け取る”との前提で投げてきたのだろう。

この国の守りの要、兵士長官である私のことを少しは調べているらしい。

石を核とし、ご丁寧にきちんと折り畳み包まれたそれは角も鋭くなり、使い方次第では鋭利な刃物と同等の威力を持つ。

現にサリーの髪を切り、私の手も・・・。


とりあえず物を仕舞い、胸ポケットからハンカチを取り出し傷口に当てて握り締めておく。

こうしておけばじきに血は止まるだろう。

受けとり方が悪ければもっと深く切れていた。

全く、彼女たちに怪我はなかったからいいが―――この身の内に起こる怒りは、どう始末してくれよう。


沸々と漏れ出てしまう殺気を何とか薔薇園の外へと追いやり、辺りの気配をうかがっておく。

今のところ不穏な動きはない。

しかし何故、これを返してきたのか。

このような物、そのまま捨て置けばいいものを―――


幸いにも彼女達の心に怯えはない。

あれからも変わらずにエミリー達の話声は愉しげだ。

それに誘われ来た小鳥たちが呼応するように囀り、まるで旋律豊かな音楽のように聞こえる。

可憐に咲く花のそばで輝く君の笑顔、それにキラキラと降り注ぐ暖かな日差し。

私は、この平穏を守らなければならない。

今も、これからもずっと。



ふと気配に気づき、そちらに目を向ければラウルが走り来るのが見えた。

ふむ・・随分と戻りが早いな――――



「パトリック様、戻りました」

「ラウル、ご苦労――」

「申し訳ありません!取り逃がしました。敵は素早い動きで方々へ別れ、そのうちの一人を追いかけたのですがあまりにも逃げ脚が早く、木立の中で見失いました」

「君でも、か」



乱れた息を整えつつ小声で報告をするラウルの顔はゆがみ、実に悔しげだ。

追いかけた侵入者は三人だと言う。

しかも、相当な訓練を受けている者、サルマン事件と同等の輩達だと思えた。

警備の厳重さを誇るギディオン王国の城に侵入するなど、そのくらいでなければ困るが。



エミリーと2度目に会ったあの時のことが思い出される。

丁度この場所近く、あの細腕に怪我をさせてしまった、あの日のことを。

あの数日後にサルマン事件が起こったのだ。

どんなに些細なことも見逃してはならないと、改めて気が引き締まる。



「それで―――君は、そのまま戻ってきた訳ではないだろう?」