シャクジの森で〜番外編〜

ふむ・・・あれは、一体何だ?

形状的には、ナイフのようにも見えるが・・・刃は、無さそうだ。



「危険な羽虫が何だってんだい。この愛用の“ヘラ”でやっつけてあげるよ!」



その“ヘラ”というものをブンブンと振り上げてエミリーに見せるサリー。

全く勇ましいものだ。

その姿を見た彼女の表情からは哀しさが消え去り、みるみる笑みが戻っていく。



“――良いか、パトリック。彼女の瞳を曇らせること、それだけは、私も含め他の誰にもさせぬ。それを、君は、心しておけ――”



婚儀直後、兵士長官である私を呼び、アランはこう言ったのだ。

そう。

私もこの城にいる者も、誰もがそう考える筈だ。

だが今は―――・・・

私は、どうするのが正解なのだろうか。



「まぁ、サリーさん。とても頼もしいわ。もしかして、それ。いつも持ち歩いているの?」

「え?違うよ、これは、今日だけだよ。ここに来るまでの間に、ちょっとおかしなことがあったものだからさ。護身用にポケットに入れてたんだ。それが今役に立つなんて、世の中上手いこと出来てるねぇ―――あ、それよりも、王子妃様。行こうよ外へ。天気は上々だよ!」



手を握り外へと誘い始めるサリーに対し「・・・あ、でも―――」と戸惑いの声を出しながら彼女は私を見つめた。


これはもう、覚悟を決めないといけないな。


「貴女お待ちなさい!勝手は、エミリー様の警備責任者であるこの私が許しません!」



動かない私に痺れを切らした様子のウォルターが走り込み二人の前に立ちはだかると、サリーの首がカクンと垂れ、心底残念そうな声を出した。



「はぁ・・・どうしてなのかねぇ・・・。王子妃様は外に行きたいって言ってるんだ。それを叶えてあげるのも、警備責任者っていうアンタの仕事でもあるんじゃないのかい?私なら、例えどんなモノが襲ってこようとも、守りきってみせるけどねぇ。アラン王子だって今ここにいればそうする筈さ。何てったって、あのお方は、王子妃様にぞっこんだからねぇ・・・」



羽虫なんて物ともしないさ。ねぇ、王子妃様?

と、エミリーに同意を求めているが彼女は何と答えていいものか困っている様子だ。


彼がここにいれば、か。




「その様なこと貴女に言われなくても分かっています。・・・兵士長官パトリック様。進言失礼致します。この私ウォルター、シリウス、ラウル、我等3人命に代えましてもエミリー様を守る所存です。外出の許可をお願い致します」



もう失敗は致しません。

と、ブラウンの瞳からは揺ぎ無い覚悟が伝わってくる。


不審者の人数も正体も不明のまま、危険は重々承知の上だ。