シャクジの森で〜番外編〜

華奢な肩に手を伸ばしかけたところ、予想外にも、私と彼女の間にグイッと入り込んできたものがあった。

目の前で波打つ赤毛がふわりと揺れ、バニラのような甘い香りが漂ってくる。

あぁ・・・これは、サリーだ。


細い身体からは微弱ながらも怒りの気が伝わり来て一息に気が戻り、急いで手を引っ込め息を吐いた。

―――今、危なかったな―――


「あーもうっっ。なんだいなんだいアンタはっ」


それでも男かい!!

怒気を含んだ凛とした声を出して彼女の前に立ちはだかり、ギロリとこちらを睨み付けるサリー。

その背後からおずおずと顔を出したエミリーは、彼女を見上げて窘めるような声を出した。



「サリーさん?ごめんなさい、あのね、パトリックさんはわたしたちの―――」

「あ、待って、王子妃様は黙っててくれるかい?私は、この方々に、一言言わないと気が済まないんだよ。ね?だから、私の後ろにいなよ」



それに、王子妃様が謝ることじゃないよ、そう言いながらサリーは自らの腕を掴む小さな手をそっと握って退け、再びこちらを振り返り見た。

その表情は先ほどよりも一層迫力を増している。

エミリーの魅力は、女性の心と身体をも動かすらしい。



「まったく、聞いちゃいられないねぇ。大の男がこんなに揃いもそろって、羽虫一匹からも守りきれないってのかい!?全く、何のための護衛なんだよ!アンタたちのその腰にある剣は何だよ、ただの飾りモノなのかい?羽虫くらい、スパーンと、切っちまえばいいだろ!?」



身ぶりも交えてズバリと言い切る。

私を始めとしウォルター、シリウス、ラウルへと、順に一人一人を睨み付け、日頃から鍛え上げている大柄な男達を「情けない!」と叱り飛ばす風情は、下町の母はまさにこんな感じなのだろうといったところだ。

まだ若いにもかかわらず、実に、迫力がある。

これは、侍女長でも敵わないかもしれない、とも思わせる。


ウォルター達は驚きのあまり声も出さずに彼女を凝視したままだ。

というよりも、正論には言葉も返せず、と言った方が正しいか。



確かに、襲い来れば切れば済む話だ。


それは、十二分に分かっているのだが―――


―――サリー、分からないかい?


彼らは皆、彼女を怖い目に合わせたくないんだよ。

勿論、この私も同様だ。



「ねぇ、王子妃様?私なら大丈夫だよ、羽虫なんかちっとも怖くないし平気なんだ。だからさ、こんな頼りにならないお方たちは置いてさ、二人だけでその薔薇園に行こうよ。王子妃様のことは、私がこの身をもって守ってみせるからさ。ね?」