シャクジの森で〜番外編〜

そう言うと、エミリーは一瞬瞳を見開いたあとに指先で唇を隠してうふふと笑った。



「パトリックさんも、皆と同じことを言うのね?・・・たしかに見ごろではないわ。でもそれでもいいんです。お花が少なくても、あそこは十分に素敵なところでしょう?」



いつもモルトさんがお手入れしているもの。それに、あそこにあるお花は、薔薇だけじゃないわ。

そう言って、にこにこ嬉しそうに微笑む君の瞳はキラキラと輝き、いつもに増して眩しく映る。


今日は、本当に楽しいのだな・・・友人を招き語らうのは、初めてのことだろう。




「―――っと・・あー・・エミリー?これから私の言うことを、よく聞いてくれるかい?」



気を取り直し出来る限りの真剣な顔を作り、宝石のように美しい瞳を真っ直ぐに見る。

そうすれば君は、大切なお話ですか?と穏やかに微笑みながらも真摯に向き合ってくれた。

ウォルター達も静かに成り行きを見守る中、慎重に言葉を探す。

ここで自分の気持ちに負けるわけにはいかない・・すべては君のため、だ。




「今日は、アランが、いない。私としては、君には外出を控えて欲しいと思っているんだ。彼の留守中何かあると大変なんだ。わかってくれるかい?」



先ずは簡潔な言葉で攻めてみるが・・反応は、鈍い。

首を傾げてキョトンとした様子だ。

と、いうことは―――



「・・・え?大変っていうのは―――?ぁ・・えっと・・あの、パトリックさん、それはいいの。昨日アラン様にはきちんとおねがいしたもの。そうしたら、“分かった。君の好きなようにすれば良い”と言ってくれたわ。だから、今日はいくら外出しても平気なんです。ご心配ありがとうございます」



それにね、ほら。今日は特別な日なんですもの、と彼女は言葉を継ぎながら斜め後ろを見る。

そこにいるのは、緊張した面持ちで立つサリーだ。



―――アランは叱らない、か。

ここまでは予想していた通りの返事だ。

これ以上彼のことを持ち出しても効果は得られないだろう。

王子の威厳も通じないとは、全く困ったものだな。

次の策に移るとするか、出来れば、使いたくなかったが―――



頬を染め、うふふ、と声を立てて笑っているのは、彼との会話を思い出しているからか?

昨夜のアラン・・・か。

渋々ながらも許可をする様子が容易に想像できるのは、何とも辛いところだ。

氷の王子でさえ陥落させる君のお願いに、私は勝てるのだろうか。


フッと小さな息を吐き、気を調える。


私を緊張させる女性は君だけだよ、エミリー。