シャクジの森で〜番外編〜

コツコツと複数の足音がし始め、それに混じる甘やかな笑い声が聞こえてきた。

それに被るようにして発せられる別の声も、耳に届き始める。

エミリーと、サリーだ。



「―――・・・のよ。ね?とても可笑しいでしょう?」

「アハハ!そうだねぇ。でも、王子妃様?それはさ、きっとこう思ってるんだよ。『まてよ、これは、既にゴミではないのか?』って。こうさ、眉間にしわを寄せてさ・・・どう?有り得そうだろ?」



階段の中途でピタリと止まり、サリーが身ぶりを加えて話しているのが見える。

もしやあれは、アランの真似なのか?

本当に、おそれを知らないお嬢さんだな・・・。


予測よりもかなり遅いとは思っていたが、こんな感じに話しながらならば納得が出来るというものだ。


今ばかりは、サリーの存在が有り難く思える。

おかげで少し落ち着きを取り戻せていた。



「え・・ほんとう?サリーさん、そうなのかしら―――・・・やだわ。それって、とっても可笑しすぎるわ」



それにサリーさん。とてもそっくり!そう言ってクスクスと笑う彼女は随分楽しそうで、見ているこちらまで嬉しくなってくる。


結い上げられた髪が動くたびにふわふわと揺れ、アクセサリーもきちんと身に着けられていて、どこからどう見ても美しい王子妃だ。

朝は本当に起き抜けだったのだなと、改めて思う。

それに、羽織りものもショールではなく、クリーム色のマントをきっちり着込んでいる。

どうやら、散策に出掛ける気は、満々にありそうだ。

さて、困ったな・・・どう説得するかな―――――



「・・・エミリー?」



階段を降り切りホールに移動してくる彼女に声をかけながら、合図するように手を振ると、瞳を見開いた後にふわりとした笑顔をくれた。

朝に増して、可愛い。



「パトリックさん!?どうしたのですか?」



ここに来るなんて、珍しいですね?そう言いながら近付いてくる。

あぁそういえば。

今朝の出来事、きっちり忘れてくれただろうか。



「あーっと・・・その姿。君は、今から散歩に出掛けるのかい?」

「そうなんです。サリーさんに薔薇園を見てほしくて、今からご案内するところなんです」


パトリックさんは?、そう訊ねるようにこちらを見た後、あ!と小さな声を上げ、胸の前でパシンとてのひらを合わせた。何か、思い出したのか?


「・・・そうだわ、パトリックさん。ありがとうございます。サリーさんのこと、助けてくださったのでしょう?」


「あぁ、あの事か。・・・大したことじゃないよ」



君のその笑顔が見たくてしたことだ、という言葉をぐっと飲み込み、微笑みを向けるだけに留める。


散歩を制止すれば、この可愛い笑顔も曇ってしまうのだろうか。




「それはそうと・・・君は、薔薇園に行くのかい?・・あそこは、もう花の見頃は終わってるだろう?」