シャクジの森で〜番外編〜

―――今頃はご友人と共に移動中で御座います―――

そう言った伝言役の彼にはすぐに持ち場に戻るよう命じ、別れた。


―――移動中か。

ならば、目指すは塔の玄関だな。

政務塔の方からまわってくれれば言うことはないのだが、きっとそうではないだろう。


どのみち私は塔には入れない身なのだ。

先回りして出てくるところを制止するしかない。


ここから目的の場所までは、かなりの距離がある。

辿り着く前に外に出てしまえば、連れ戻すのは非常に厄介だ。


果たして間にあうのか?


走りたくなるのをぐっと抑えて速足で歩くが、このときばかりはどうにも緩慢に感じてしまい卑しくも舌打ちをしたくなる。

心中で我が脚を叱咤しつつ急ぎ階段を下り玄関へと向かう。


一旦外に出さえすればこちらのもの、誰に気遣うこともなく気が急くままに走り行くが、いつもよりも遠くに感じる。

漸く塔の玄関先が見えてくると人影はなく、良かった間に合ったのかと安堵しつつも、ちょっとした異変に気付いて眉を寄せた。



人影が一つもない、とは。

これは、どういうことだ?


いつもの見張りの兵の姿が、ない。

玄関は、警備の基本の場だ。

何故、ここに誰もいないんだ?


覗き込めば中はしんと静まり、見える範囲には人の気配も感じられない。

まさかとは思うが・・・。

ウォルター達が気付かないうちに不審者が侵入し、この塔のどこかに潜んでいる、というのか?



彼女は今何処だ?



乱れた息を整えつつ周りに目を走らせる。


城門の方角、塔の向こう側、薔薇園への道・・・


ふんわりとしたあの姿はどこにも確認できない。

ということは、やはり、まだ中にいるのか。

危険が及んでなければいいが。



玄関先の、中が望める位置の壁に凭れ腕を組み、静かに瞳を閉じ意識を集中させる。

気を落ちつければ、ぴりぴりとした気の中を移動する、ふんわりと柔らかなそれがゆっくりとこちらに近付いてくるのを感じた。

これは、周りをがっしりと囲まれているのだろう。

いくら彼女の気とはいえ、気付き難いのはそのせいだな・・・。


所在を確認し、肩の力がすぅ・・と抜ける。

だが、まだ油断は出来ない。

この場の気配に気を配らなければ―――――



「パトリック様!」



一人の兵が慌てた様子で走り来るのが見える。

ハァハァと喘ぐように息をしながら抜き身の小剣を鞘に仕舞い、ばっと跪いた。



「申し訳御座いません!」


「・・・何があった?」