シャクジの森で〜番外編〜

その扉の中。

暖かな日差しが射し込む長官室。


窓際にある椅子に座り、数枚の書類に目を通すパトリック。

真剣な様子で向き合うその姿は、一見朝と何の変わりもないように思う。


変わらずにさらりとした銀髪は光りに透け艶々と光っているし、机に向かう風情も朝の感じのままだ。


が。


じっくり見れば、サラサラと動く前髪が隠す眉は険しげに寄せられ、伏せられた睫毛の間から覗くブルーの瞳は鋭い光を放っている。


左手に書類を持ち、机の上に置かれた右手に持つペンは長い指の上で絶え間なくくるんくるんと動く。

普段ならばスマートに組まれている長い脚は落ち着きがなく、先程から何度も組み変えられていた。


珍しくもイライラとする気持は抑えられなく、体のどこかしらが常に動き続ける。



いつも威厳あるものの穏やかな気で満たされている長官室内は、今やヒリヒリとした尖った気で溢れんばかりになっていた。



午後になり小さなトラブルが相次いで二件も起き、その処理に割く時間はごく僅かなもので十分なのだが、性分ゆえに時間を掛けてしまっていた。

きっちりと解決しておかなければ、くすぶった火種が大きくなり、後々に厄介なことに成りかねないからだ。

通常ならばもっとじっくりと状況を聞き、自らが納得するまで向き合うのだが今日ばかりはそうも出来ず、イライラがますます募る。



正直これ以上の案件は勘弁してくれと心底から思う。

エミリーの警護一つに集中したいものだが、“アラン様がご不在で御座いますので”と、高官たちが持ち込む急ぎの資料にも目を通さねばならず、そうもいかないのが実情だった。

今日という日に限って、全く、何て事なのだろうか。




「―――ふむ・・・詳細は、分からず、か・・・」



今は、1つ目の城内案件を処理中だ。

ウォルターの経過報告に目を通せば、メイドたちの証言はこう書かれている。


“いつの間にか怪我をしており、「何があったのか?」と尋ねるも泣くばかりで何も話さなかった”


侍女長がジェシカ本人に尋ねても“自分で転んだんです”と言い張り、その状況説明を求めても何故か沈黙を押し通し、それ以上は何一つ聞き出せずに終わった、ともある―――・・・



あの時泣き続けていたのは、怪我の痛み、或いは、リードの取った冷たい対応から、と考えていたがどうも違うように思える・・・。