シャクジの森で〜番外編〜


「―――失礼致しました」


政務塔の中、兵士長官室から出た高官が扉を閉めると同時にかっくりと項垂れ、はぁ~・・と海よりも深い息を吐いた。


「これは一体・・・何てことなんだ・・・」



ブツブツと呟き頭を振り、深呼吸でもするように再び深い息を吐く。

少々若く見えるその高官は、用事がすっかり済んだはずなのに、まるでその場に貼り付いてしまったかのように一歩も動かない。


「・・・高官殿、ご苦労様です」



扉横に立つ警備兵が見かねて声を掛けるも、まだ、同じ状態のまま。

痺れを切らした様子の警備兵が早く立ち去った方が良いと言わんばかりに手振りで階段の方向を示し、ギロリと睨みを利かして急き立ててみるも、駄目。


「はい・・・承知しております・・・」


彼はそう言葉を返しながら、助けを求めるような苦笑を警備兵に向けた。



「そうしたいのは山々ですが・・・実は・・恥ずかしながら・・ご覧の通りでして・・・」



顔色は青ざめ冷や汗のにじんだ額。

実は、部屋から出た途端に全身から力が抜け、動きたくともなんともどうしようもない状態になっていたのだ。

扉に着けたままの手は全く動かせず、パッと見は分からないが指先は小刻みに震え、脚にも力が入っていない。

少しでも脚や手を動かせば、今にもヘナヘナとくずおれてしまいそうだった。



「―――了解しました」



警備兵がきびきびとした歩調で近寄り、高官の脇に両腕を差し入れしっかり支え、扉からべりっと引き剥がした。



「は・・申し訳ない・・有り難う御座います」



高官の青い唇から、ハハハ、と渇いた笑い声が漏れる。

まさか、長官の部屋でこんなことが起きようとは思っていなかったのだろう。

ひくひくと引き攣った表情からは、恥ずかしくて堪らないがどうしようもない、というのが見てとれる。



「いえ、慣れてますから」

「あぁ・・そうでしょうな・・・」



自分だけではないのだなとホッと息をついている様子の彼を、警備兵はそのままずるずると引き摺るようにして廊下を運んで行き、一番端の部屋に押し込んだ。



「暫くここで休んでいて下さい」


そう言い残し、再び持ち場に戻る。


警備兵は首を捻り長官室の扉を見た。


動けなくなった者。今日はこれで二人目だった。

何がどうしてこうなったのか、不思議に思う。


ここが執務室ならばともかく。

いつだって柔らかな風情のここでは、こんなこと一度も起きたことがないのだが―――と・・・。