シャクジの森で〜番外編〜

袋を取り出そうとして、渡された状況をふと思い出しとどめた。

すぐにでもメモを確認したいところだが・・・。

何せ、国王が“内密に”と仰せの物だ、外で開けるわけにはいかないか。

今はとりあえず、長官室に戻らねばならないな。

いつもと違い、気分転換にこのままふらりと散歩でも・・・というわけにはいかないのだから。

しかし、穏やかで、良い天気だな。

何とも複雑な気分になるよ―――



「あぁ・・ちょっとそこの君―――」



道を歩く使用人達を見つけ、す・・と、人差し指一本を立てて見せると、連れ立って歩くうちの一人が手持ちの道具を仲間に預け、此方に走り寄ってきて瞳を伏せた。



「はい、長官様。何で御座いましょうか」

「頼みたい事が有るんだが、君は今忙しいか?」

「いいえ、大丈夫で御座います。なんなりと仰せ付け下さい」

「それならば。馬を小屋に戻しておいて欲しいんだ」

「畏まりました。長官様」



頭を下げ両手を差し出す使用人に手綱を託し、政務塔に向かってのんびりと歩いていく。

緩やかに吹きわたる風が咲き遅れた可憐な花々を揺らし、立木の葉をさわさわと鳴らす。

何もかもが色濃い夏と違い、淡い色の花弁が城庭に違う風情を出す。

空までもが夏より薄いと感じるのは、うっすらと霞のような雲がかかっているからか。


自然というものは不思議なものだとつくづく思う。

あの凄まじく酷かった嵐などまるでなかったかのように、木々は静かに佇み、薔薇園も秋咲きの花を開かせ訪れる人々の目を楽しませてくれた。

モルトをはじめとする庭師達の努力もあるが、自然の治癒力には脱帽ものだ。


だが、人工物はそうはいかない。

国で考えれば爪跡の残る地区は未だ多く、各地区の担当者が力を尽くしてはいるが、若者の少ない小さな村では手つかずの場所がほとんどなのが実情だ。

あれから何カ月も経っているというのに―――


アランの定期視察は普段の治安維持に加え、復旧の有無判断と状況確認も同時に行われている。

恐らく冊子に記載されていた箇所を中心に見てるのだろう。

その報告から優先順位を決め次月の計画を練るのだ。


―――彼は今頃、サディルとの国境の辺りか―――



「パトリック様、こんにちは」



不意に背後から声を掛けられ、振り返ると道具籠を背負った初老の男性が近付いてくるのが見えた。

青いシャツに紺色のつなぎズボン。

使用人とは違う服装をした少しばかり太めの男、彼は、この城の庭整備を一手に引き受ける者、モルトだ。