シャクジの森で〜番外編〜

『駄目だ駄目だ。嘘を言ってはいかん。その様なことがある筈ないだろう。帰りなさい』


『嘘じゃないよ!全く融通聞かない男だね!私は用事があってここに来てるんだよ!』




「―――このようなこと。何しろ滅多にない事態で御座いますれば、対応に困った警備兵から連絡を受けまして、私が行ったのです。が・・・門の真ん中で、ぎゃぁぎゃあと文句を言い、あまりに五月蠅く微動だにしないものですから、最終手段の対応をしようとしたのですが・・・・」


「追い返そうとして体に触れたら・・・そこ、頬を引っ掻かれた、と言うわけかい?」


「・・・はい。恥ずかしながら―――」



―――ふむ、この感じ。まさかとは思うが―――



顔と姿が思い浮かび、ふと笑みが漏れる。

つい最近起きた出来事が思い出され、彼女ならばやりかねないと、レスターの傷を見て改めて笑みを零した。



「・・・あの・・長官殿?」

「あーすまない。で、その者は、誰の名を出したんだい?」

「はい。それは―――あまりにも突飛なことで御座いまして、申し上げてよろしいのか迷いますが・・・」

「構わないよ、聞かないと私も判断できないだろう」

「では、失礼ながら・・・王子妃様、で御座います」



―――あぁ、やはり・・・。



「あのお方には外出機会もなく、民と出会う事等到底無いと思われます。まして、あのような民とは考えられないことで御座います。ここは侮辱罪として裁くべきかと―――」

「っ―――待て。私が対応しよう。その者は、今も城門に居るのだな?」

「はい。あ、いえ、長官殿にご足労願うことではなく、一言ご命じ下さればその様に致します」

「いや、王子妃の名まで出たんだ、真偽を確かめる必要がある。私が行かずしては収まらないだろう」

「―――は。お願い致します」



上着を羽織り急ぎ外に出て、落ち葉がひらひらと舞う中、馬を駆る。


城門までは遠い。


考え難いことだが、もしも、私の考えた通りの人物だったとしたら。

その者が諦め帰途についていたとしたら、エミリーに申し訳ないことをしてしまう。

きっと、会うことを楽しみにしていたのだろうから―――



“本日、エミリーが・・・”



今朝の一場面が頭をよぎる。

あの時言いかけたのはこのことか?

全く。

アラン、言付けはしっかりと言うものだぞ―――