シャクジの森で〜番外編〜

廊下に、よく通る柔らかな声が響き渡った。

遠くの方から急ぎながらも優雅に歩いてくる美しい女性の姿が見える。

頭にティアラを着けた者、この国の皇后だ。


何故王妃ではなく皇后と呼ぶのか、それはこの国の歴史の名残が関係あるのだが―――・・・


アランは、御世を継いだ際にこの古き呼び名を一新しようと考えてるようだが、果たしてどうなるかな―――



「まぁ、何てことでしょう。私共だけで拝見するのは勿体無いほどに、いつもに増してお綺麗ですわ。ねぇ、侍従長」

「はい。まこと、その通りで御座います」

「皇后様、こんにちは。本日はご招待下さりありがとうございます」

「あら、そんなに堅くならなくてもよろしいんですのよ?私とシンディの仲では御座いませんか」



ぴしりと緊張感を取り戻して居住まいを正し、膝を折って丁寧に挨拶するシンディ。

それに対し柔らかに微笑む皇后は、気さくな様子で「さぁ参りましょうか」と言ってシンディの手を握った。



「ラムスター、ご苦労様でした。お気持ちは分かりますけれど、そんな心配そうな顔をなさらないで。大切な妹君、確かにお預かり致しますわ」


「宜しくお願い致します―――・・・っと、シンディ?終わったら、迎えに来る。ここで待ってるんだ、いいね?」


「分かったわ、お兄様」


「まぁ、相変わらずに妹君に甘いお兄様ですこと。気を付けないと、世の女性が見たらシンディに嫉妬してしまいますわよ?」



冗談とも本気とも取れる言葉。

そのにこやかな笑顔に向かって笑顔で返した。



「そんなことは、させませんよ。どうぞ、ご安心ください」

「あら、怖いこと。これは、貴女のお相手になるお方は大変ですわね?」

「・・・え?皇后様、何のことですか?」

「いいえ、こちらのことですわ。気になさらないで。さ、参りましょうか」


「はい、皇后様。お兄様、行ってきます」


「あぁ、行っておいで」


遠ざかってく二人の背中から会話が聞こえてくる。


「一緒に食事をするなど久方ぶりですものね、楽しみにしてるとよろしいわ。今日は貴女の好きな物を取り揃えましたの」

「本当ですか?とても嬉しいですわ」



―――良かった、なかなかに楽しげな様子だ。

しかし・・・皇后に、私の意図した牽制が届いてると良いが―――


知らずにため息を吐いていたらしい、侍従長がツツツと寄ってきてコソリと囁いた。



「すっかりお美しくなられましたな。お兄様もさぞかし心配で御座いましょう」

「・・・あぁ・・・侍従長、終わったら連絡を頼むよ」

「はい、勿論。畏まりまして御座います」



丁寧に腰を折る侍従長に軽く手を上げて見せ、王の塔を後にした。