シャクジの森で〜番外編〜

男心を擽る甘い声で何度もお願いされ根負けしてこの時間にしたが、やはり、変更した方が良かったか?

何をしていたのかは知らないが、昨夜はかなり遅くまで部屋の灯りが点っていた。

その上で、あの早起きなのだから―――


いつも輝いている、あの綺麗なブルーの瞳をトロンとさせ、懸命に瞼を開いて私を見ていた・・・。

本当に無理をしたのだな。そう思うと改めて愛しいと感じる。

これはやはり、予定よりもかなり遅れるだろう・・・。



「そう、だな・・・そうするか・・・」



珈琲をくいっと飲み干し上着を羽織って扉横に立つ警備兵に行き先を告げる。

長い廊下を歩いて行けば、徐々に階下のざわめきが耳に届き始めてピリリと気を引き締めた。

各業務部屋をまわり室内に顔を出すとざわめきがピタと止み、忙しげに動いていた官職たちがガタガタと隅に移動して居住まいを正す。


「パトリック様、何か御座いましたか・・」

「いや、すまない、様子を見に来ただけだ。私に気にせず業務を続けてくれ」



政務塔の中は活気に満ちあふれ、アランがいなくても気を抜くことなく皆普段と何も変わらない。

流石我が国きっての優秀な者達だ、ここは気にする必要はないな・・・。

となると、気になるのはやはり―――――



「お待ち下さい、パトリック様!」



医務室前を歩いていると、不意に背後から声を掛けられ振り向くと侍女長が小走りにやって来るのが見えた。

あの、急いだ様子は―――何かあったのだろうか。


「何かあったのかい?」


「はい・・・お探し・・致しました・・・」



緊張感を持って訊ねると、侍女長はハアハアと息を切らしながら傍まで来て、膝を折って挨拶をするやいなや手招きで廊下の隅に誘導してきた。

向かい合って立つと、きっちりと結われて少しの乱れもない髪を両手でササッと抑えつけ居住まいを正し、真っ直ぐに真剣な顔が向けられた。


内密の件なのだろうか。

もしや、彼女に関することか?


最悪の事態を想定し気を高ぶらせて身構える私に対し、侍女長はポケットの中から小さな袋を取り出し私の前に差し出した。

無言のままだがその瞳は眼光鋭く、早く受け取れとの圧力がビシビシと伝わってくる。

流石、城中のメイドを纏めているだけのことはあり、今の私に対しても全く怯まない。



「御確認下さい」


「・・・これを、かい?」


受け取ったのは、掌に収まるほどに小さな袋。

中を覗くと、小さいがまるで木の根のようなヒョロリとした棒状の物が入っている。


・・・これは、一体・・何だ??