シャクジの森で〜番外編〜

「これは、随分と難しいな・・・」


ひとりごちた薄めの唇から深いため息が漏れる。

形の良い眉が思案気に寄せられ、節立った男らしくも綺麗な指がペンを走らせては止まりを繰り返す。

窓から差し込む光りに透かされて艶々と光る銀の髪が身動ぎをするたびサラサラと揺れ、書類を見る瞳は悩ましげに細められた。


日が高くなれば部屋の中もポカポカと温かいため、早朝から入れられていた暖炉の火は既に消されていた。

普段から整理されている机の上には、処理済みのサインがされた書類と先程差し入れられた珈琲、それに、朝フランクから処方された“薬”が置かれている。


思考の合間にふと目を上げると、処方袋が目にとまって苦笑が漏れる。

実はこれを先程から何度も繰り返していた。


政務塔が稼働し始めてより起こる事象とギラリと光る眼鏡が頭を過り、何とも形容し難い気分になる。

フランクに見張られているようでもあり、来室する兵や官職達は当然ながら自然にこの袋を発見するのだ。


そして、皆が皆こう言う。


「長官様、具合が悪いのですか?大丈夫ですか?」


と。


“アラン王子のいない今、誰が城の秩序を正すのか。私までが不在になるのは非常に困る”


そういったところが大方の本音だろうが、心底心配げにするので返答にも困っていた。



「大丈夫だ、少し疲れているだけだよ」


とでも言ってしまえば最後、“疲れ”に反応し、「それは大変で御座います」と却ってアレコレと言葉が掛けられてしまい、納得させて退室させるのに苦労した。


それならば片付ければ良いと思うが、今のところそのままにしてある。

これを見れば嫌でも自戒が強められるのだ、仕舞わない方が、私のためだ。



彼女の身体に触れて良い者。



これは、高貴な身分ゆえに限られるのは当然なのだが、彼の場合は違う意味合いも含んでいる。

しかも、そちらの割合の方が大きいときてるのが、困りものだ。

彼の物差しの中で、私はギリギリの線上にいるのだろう。

この若さで、空に召されたくはないよ・・・。



コトリとペンを置き溜め息を吐く。




「全く、アランも無茶なことを仰せだよ・・・」


次期会に提示すると宣うこの書類は、急ぎな上に、考えていたよりもずっと難儀なものだった。

更に朝に渡された冊子の確認作業もあり、加えて国王からの命もあってそうそう書類にばかり向き合っていられない。

この調子で期限までに出来るのだろうか・・・。


煮詰まって火照った頭を冷まそうと、珈琲カップに手を伸ばし口に含んだ。

少しの酸味と苦みが広がり香ばしい香りが鼻腔を通り抜けていく。


―――うん、今日のは、良い味だな―――