シャクジの森で〜番外編〜

寝不足に加え、この私の若さを否定するとは、一体どういうことだ?

確かに、三十路は間近だ。

が、これでも日頃から鍛えているのだが?彼にしては珍しく、随分失礼なことを言うものだな・・・?


そう疑問に思いつつ目を合わせれば、ウンウンと頷くように首を縦に振るその表情が微妙に笑みを含んでいるように見えてピンと来た。


あぁ、そういえば。

ウォルターは勘違いしたままだったな・・・。

いや、素早く否定しなかった私も悪いのだが。


昨日別れ際に意味ありげに笑った顔を思い出し、込み上げてくる可笑しさを放出しながら手をひらひらと振って否定の意を示した。

これでは伝わる筈もないだろうが、今更に真実を言うのも憚るだろう。


「何か、可笑しいのでしょうか」

「・・・いや、いいんだ。何でもないよ、君の気のせいだ。私は平気だよ、フランクにご足労願うことではない」


こんなことで呼んでは迷惑だろう。

時節柄、彼も忙しい身なのだから。

この話はこれで仕舞だ、気にせず業務に戻るといい。


そう言って冊子に目を戻せば、机がバシン!と叩かれる音がした。

「何だ?」と呟き眉を寄せつつ見上げると、机に手を置いたウォルターの真剣な顔がずずいっと近付いてきた。


部下であるのに、妙に迫力がある。



「いいえ!貴方様もよくお分かりのことでしょうが本日は少しの油断もならない日です!城内、特にエミリー様近辺の平穏のためにもパトリック様には万全でいて貰わねばなりません。あの方に何かあれば、どれだけ恐ろしいことになるか貴方様も身を持ってお分かりでしょう。更に今日はシンディ様も来られるのです!やはり、何と仰ろうと拒もうと、私はフランク殿をお呼び致します!良いですね!?」


―――これは、笑ってしまったのがいけなかったのか?


彼は、あからさまに不快感を表現した私を物ともせずに鼻息も荒く有無を言わせぬ迫力で言い放ち、止める間もなく足早に出て行ってしまった。



「そうだ。私を止める者・・・彼がいることを、忘れていたな・・・」



呆気に取られて動かせないでいた体と表情を戻せば、途端に笑いが込み上げてきた。

クスクスと一人笑いしつつも手にしていた冊子状の書類を封筒の中に仕舞い、フランクが来るまでの間に急ぎの書類の処理に取り掛かる。

いくら国王の命とはいえ、仕事を遅らせるわけにはいかないのだ。


整然とした静かな部屋でパチパチと暖炉の火が弾ける。

集中してひたすらにペンを走らせていると、ノックのあとに警備兵からの呼び掛けが聞こえてきた。



『パトリック様、フランク殿が御出でになりました』