シャクジの森で〜番外編〜

兵士長官室の中。

椅子に深く座り腕を組み、天井を仰ぎ見て深いため息を一つ吐く。

アラン不在な一日の始まりは最悪なものだった。

本当に、危ないところだった。

まさか気を張っていたはずの私自身が先陣を切るとは、そんなことは思いもしていなかったのだ。


体に、手に、彼女の香りと柔らかな身体の温もりがまだ残っている。

これは、暫く頭から離れないだろうな―――


・・・エミリー・・・君は今頃、私のした行為を思い返して悩んでいないだろうか・・・。

確かめたいが、しかしどうやって・・・。


目を閉じて考え込んでいると、不意にノック音が響いたのでその体勢のまま入室を許可した。

多分、ウォルターだろう。


「失礼致します。パトリック様、此方を御確認下さい。アラン様からです」

「ん?あぁ―――」


心臓がドクンと波打つ。

アランからか・・・。

今はその名前の響きさえも恐ろしく感じる。

なるべくならば避けたいものだが、そうもいかないのが辛いところだな。


「何の書類だ?」

「申し訳ありませんが、私は存じません」

「君が知らないもの?」


体勢を戻して見れば、ウォルターが手にしていたものは大きな封筒だった。

受け取ると思いのほかずっしりと重いそれの中身を取り出してみると、端が綴じられていて冊子状になっていた。


「ふむ―――これは急ぎかい?」


パラパラと捲って見る限り、民からの要望書のようだが・・・印がしてあるのは彼が重要と判断した事項か・・・。


「いえ、それは今週末までに確認し返却するようにとのことです。パトリック様には、本日はなるべく書類の処理を控えるようにと、国王様より仰せつかっております」


「国王が?了解した」

「―――あの、大丈夫ですか?」

「ん?大丈夫とは―――何か、おかしいかい?」



書類に目を通しながらウォルターの問いかけに問いで返す。


・・・ざっと見る限り、荒れた道や老朽化した橋の整備から、地区の境界線の是正まで、内容は様々にある。

これは、結構な分量だぞ・・・今週末までか・・・。



「いえ、朝から大変お疲れの様子だと拝見いたしましたので。フランク殿をお呼び致しましょうか。スタミナ剤を処方して頂けるでしょう」

「・・・スタミナ剤?」


言ってることが理解し難く、書類から目を離して我が国きっての堅く真面目な顔を凝視する。

と、彼は咳払いをした後にもう一言付け加えた。


「寝不足なのでしょう。貴方様もそれ程若くはないと言うことです」