経験から考えれば、新しい事象を与えれば気が反れ先に起こった現象を深く考えることは出来ないはずだ。
それが恐怖ならばなおさら。
―――全く、私は、悪い男だな―――
「――そう、羽虫がいる。すぐ傍、君の後ろを飛んでいるんだ」
再度抱く腕に力を入れて引き寄せる。これで、危険だと伝わってくれればいいが。
「ぇ・・羽虫?前と同じなのですか・・・パトリックさん」
思った通り、以前怖い思いをして以来羽虫が少しばかり苦手になった彼女は、驚き震えすがり付いてきた。
そういえば、君は長い虫も苦手だったな・・・。
私の服をぎゅっと掴み震える背中を、ぽんぽんと叩いて宥めながら空を見上げる。
細められた迫力あるブルーの瞳が青い空に浮かび上がり今更ながらに懺悔する。
・・・アラン、すまない許してくれよ。
この通り、一応、未遂だ。
“私のキスを止めておきながら、君は何をしておる”
などと恨めしげにも叱る声が聞こえる気がするが、今は私を止められる者が誰もいないのも事実だ。
今日はいつもに増して自戒を強めねばならんな。
彼に知られれば銀の龍が目覚め、命はないだろうことは楽に想像できる。
運が良くて再起不能だ。
実際に飛び回っている小さな羽虫に狙いを定め、手の甲で叩き落とした。
「もう大丈夫だ。安心するといい」
「ほんとう・・ですか・・・?」
「あぁ、本当だ。周りを見てごらん」
震える身体から腕を外して促せば、私の胸にすがりついたまま恐る恐る周りを見る彼女の肩から力が抜けていく。
「・・・ありがとうございます、パトリックさん」
「あぁ、どういたしまして。君ならば、私はいつでも助けるよ」
おねがいします、とても頼りになるわ。そう安堵して微笑む君を見れば胸がズキリと痛む。
これは罪悪感からなのか、愛するがゆえか。いや、きっと両方だな―――
「このまま朝の散歩に誘いたいところだが、もう塔に戻った方がいいな。朝食はまだなのだろう?」
「えぇ、実は、起きるのが精一杯だったんです。とてもお腹が空いたわ」
恥じらうように微笑む君に手を差し出すと、指先がそっと乗せられた。
政務塔の玄関に向かって歩き出すと彼女の警備兵と目が合い、一部始終を見ていたであろう彼に引き渡しながらひと睨みして牽制しておく。
「君、彼女を頼むよ。あぁ、それから―――口には、気を付けろ」
「・・・心得ました」
塔に戻っていく可憐な後ろ姿を見送り、前髪をくしゃりと掴んだ。
―――しっかりしなければ。
この城の中で一番危険なのは、他の誰でもない、この私だ―――
それが恐怖ならばなおさら。
―――全く、私は、悪い男だな―――
「――そう、羽虫がいる。すぐ傍、君の後ろを飛んでいるんだ」
再度抱く腕に力を入れて引き寄せる。これで、危険だと伝わってくれればいいが。
「ぇ・・羽虫?前と同じなのですか・・・パトリックさん」
思った通り、以前怖い思いをして以来羽虫が少しばかり苦手になった彼女は、驚き震えすがり付いてきた。
そういえば、君は長い虫も苦手だったな・・・。
私の服をぎゅっと掴み震える背中を、ぽんぽんと叩いて宥めながら空を見上げる。
細められた迫力あるブルーの瞳が青い空に浮かび上がり今更ながらに懺悔する。
・・・アラン、すまない許してくれよ。
この通り、一応、未遂だ。
“私のキスを止めておきながら、君は何をしておる”
などと恨めしげにも叱る声が聞こえる気がするが、今は私を止められる者が誰もいないのも事実だ。
今日はいつもに増して自戒を強めねばならんな。
彼に知られれば銀の龍が目覚め、命はないだろうことは楽に想像できる。
運が良くて再起不能だ。
実際に飛び回っている小さな羽虫に狙いを定め、手の甲で叩き落とした。
「もう大丈夫だ。安心するといい」
「ほんとう・・ですか・・・?」
「あぁ、本当だ。周りを見てごらん」
震える身体から腕を外して促せば、私の胸にすがりついたまま恐る恐る周りを見る彼女の肩から力が抜けていく。
「・・・ありがとうございます、パトリックさん」
「あぁ、どういたしまして。君ならば、私はいつでも助けるよ」
おねがいします、とても頼りになるわ。そう安堵して微笑む君を見れば胸がズキリと痛む。
これは罪悪感からなのか、愛するがゆえか。いや、きっと両方だな―――
「このまま朝の散歩に誘いたいところだが、もう塔に戻った方がいいな。朝食はまだなのだろう?」
「えぇ、実は、起きるのが精一杯だったんです。とてもお腹が空いたわ」
恥じらうように微笑む君に手を差し出すと、指先がそっと乗せられた。
政務塔の玄関に向かって歩き出すと彼女の警備兵と目が合い、一部始終を見ていたであろう彼に引き渡しながらひと睨みして牽制しておく。
「君、彼女を頼むよ。あぁ、それから―――口には、気を付けろ」
「・・・心得ました」
塔に戻っていく可憐な後ろ姿を見送り、前髪をくしゃりと掴んだ。
―――しっかりしなければ。
この城の中で一番危険なのは、他の誰でもない、この私だ―――


