シャクジの森で〜番外編〜

アランの放つ気が遠くなったのを自覚した瞬間に、制御し続けていた筈の心のタガが外れた音がした。

寂しげな小さな声が私の琴線に触れ心を動かす。


何故君は、こんなにも愛しいのだろうか・・・。


気付けば、か細くも柔らかな身体を引き寄せ腕の中に収めていた。

シンディよりも小さな身体。

すっぽりと包み込むとふわふわの髪から漂う石鹸の香りが鼻を擽り、抱く腕には知らずに力が込められる。


・・・エミリー・・私が、傍にいる・・・。




―――逃さないよう後頭部を押さえて引き寄せるも、君は私の胸に手を置き微妙に距離を取ろうとしている。

身を固くする彼女の耳輪を指先でするすると優しく撫でれば、愛らしい甘い声が短く出される。

少し脱力した身体を更に強く抱き締め、耳元の髪をかきあげ唇を寄せて息を吹き掛けながら縁をゆっくりと辿る。

「・・・ん・・」

抵抗は出来ないだろう・・・この柔らかな耳朶が弱いことを、私は知っているのだから・・・。

熱い吐息を漏らしぐったりとして来た身体を支えながら耳を攻め続け、更に首筋まで唇を這わせれば全面的に身体が預けられる。

薔薇色に染まった頬に、潤んだアメジストの瞳は美しく、半開きのふっくらとした唇からは乱れた息が漏れる。

蠱惑的な艶やかな唇が私を誘い込む。

甘く痺れるようなくちづけを施し心と意識を奪い、抱き上げそのまま―――



「・・ん・・・ぁ、あの・・パトリックさん・・?」


「―――っ・・・・・!?」


私の胸の辺りから出されるそのくぐもった声でハッと我に帰り、腕を緩める。



―――私は今、何をしようとしていた――――?


まさか、実際にしてはいないだろうな?


狼狽しつつ確認すれば、ふんわりとした髪はそのままだが後頭部をしっかり押さえつけ、指先で彼女の柔らかな耳朶をすりすりと撫でていた。

急いで手を離せば長い吐息が漏らされる。


「あの・・・」


私を見上げ、どうかしたのですか?と問い掛けて来る君の頬は紅潮し瞳は潤んでいて、息も―――


―――あぁ、これは。非常に、マズイ―――


「あぁ、すまない・・・つい――――あー、いや・・そこに・・羽虫がいるんだ。大丈夫かい?」



しどろもどろになりつつも、すぐそこに先程から小さな羽虫が飛んでいるのを利用してみるが、全く危険が無い種のものだ。

耳朶に触れておきながら、どうにも苦しい言い訳だな・・と自分でも思い自嘲する。

無意識というものは恐ろしい、他はどこにも触れていないと思うが一抹の不安があるのは否めない。

遊んでいた頃の悪い癖が出ていないと良いが―――