思わず出そうになるアクビ。

すると、いきなり院長先生が振り向いて、慌ててアクビを飲み込んだ。


「道重先生、爪切ってあげて」

「あ、はい…爪ですか…」


どっしりとした中年の看護師は、俺に押し付けるようにして爪切り用のニッパーを手渡してきた。

なんでこんな遠い田舎まで来て、人の爪切りなんてしなきゃなんないんだよ。

こんなことなら、ここで過ごす一ヶ月よりも、救命やオペ室で一日過ごした方がよっぽど学ぶことが多いはずだ。

仕方なく患者さんの足元に座り込むと、かなり厚く肥厚した爪だと分かる。

確かに、これは切りにくいし、院長先生の判断は正しいのかもしれないな…。


「先生、汚い爪を切らせて悪いねぇ~」


おじいさんは照れ笑いした。


「いえ、これはさすがに自分で切れないでしょ?痛かったら言ってくださいね」


オレがそう言ったら、院長先生は付け加えるようにして言う。


「田中さんね、糖尿病のせいで足の感覚が鈍くなってるんじゃない?ホントはもっと痛いはずなんだけどなぁ?」


…そのセリフを聞いてハッとした。


「そこからバイ菌が入って感染でもしたら大変なことになる。感覚が鈍くなってる分自分では気付きにくいだろうから、また一週間後にちゃんと病院に診せに来てね」