救急車から降りたとき、気が抜けて膝から崩れ落ちた。

顔なじみのスタッフが出迎えて、さっさと患者さんの処置にとりかかっていた。

よ…よかったぁ~…。


「止血できてるから、とりあえずCTに行くぞー!」


田尾先生のいつもの声。

いつもはヒヤヒヤするのに、今日は安心する。


「道重、お疲れさん」

「…田尾先生…ありがとうございました」


頭下げて、帰ろうかと思った。

そのとき。


「その格好、殺人事件みたいだな」


そう言われて初めて、自分が血だらけになっていることに、今やっと気付いた。

必死すぎてわからなかった。


「研修医のくせに堂々と遅刻か?さっさと白衣に着替えて来い」


手渡されたのは、昨日センター長に取り上げられたはずの名札。

“臨床研修医  道重 空”の文字。


「…え?」

「もうとっくに始業時間始まってんだけど?」

「でも…センター長が…」

「指導医は俺。さっきの患者の担当、お前につけるからな。お前が助けた患者だ」


オレが助けた…?

実感はあまりないけど、嬉しかった。

単純に嬉しかったんだ。


「ありがとうございます…!」


まだ、やれそうな気がする。