30代半ばの割に老けて見える菅野先生は、ちらりとオレを見て言った。


「将来は心臓外科医でしょ?」


まるで、これからの1カ月はオレにとって“腰掛け”みたいに言われて、ちょっとカチンときた。


「まだ決めていないので、色々勉強させてもらおうと思ってます」


うーわ、性格悪そう。

そんな第一印象だったから、ますます血液内科の居心地が悪く感じた。


「早速だけど、道重先生に担当してもらうのは、急性骨髄性白血病の患者さんね」


白血病治療のプロトコールの資料をどっさり手渡されて、予想外の重さに落としそうになった。


「明日までに全部読んできて。研修医だからって、遊び半分で来られちゃ困るんだ」


ケンカ売られてる?

…売られたケンカ、買ってやろうじゃん!?

吠えそうになったけど、ココは立場をわきまえて、何も言わずに深呼吸。


「こんなに資料を頂けるなんて光栄です」


ニッコリ言ってみたけど、嫌味も混ざってしまったか?

血液内科、初日早々から波乱の予感。