父さんは表情を変えずに言った。


「拡張型心筋症からの心不全」

「…そっか」

「いつかは話そうと思ってたんだけど、なかなか機会もなくて話してなかったな。悪かった」


予想はついていた。

やっぱりそうだったんだ。


「子供のお前に“なんで治せないの?”って聞かれるのが辛かったな~」


笑って言った父さん。


「ごめん…」

「子供は正直だからな。それに、それが普通の感覚だから。みんな医者は神様だと思ってる」


そうだ。

八重子さんのご主人の落胆した顔。

失望したって顔だった。


「確かに、医師免許を持ってたら、患者さんにしてあげられることは多い。だけど、それを買いかぶりすぎるなよ」


そう言われて気付いた。

母さんが最期まで穏やかな表情でいられたのは、薬の力だけじゃない。

家族としての父さんがいたからだ。


「じゃあな。そろそろ帰るよ」


父さんは白衣のポケットに手を突っ込んで、うす暗い廊下に消えていった。

その後ろ姿を横目に見ながら、ふと思う。

親父、やっぱ、カッコイイよ。