「このようなお願いをするのは間違っているかもしれませんけど…」


もう、頼めるのはこの人しかいないんだ。

素顔の水戸さんを知る唯一の人物。


「一度、会っていただけませんか?」

「でも…私が行ったところで、何も変わらないでしょう?」

「水戸さん、一人で闘っているんですよ?一度でも愛し合った人が来てくれたら、僕なら…嬉しいと思います」


かなり強引だったけれど、その人はしぶしぶ頷いてくれた。

中田 美由紀さんというらしい。

今は母親と2人暮らしをしているのだとか。

大学病院の地図を渡して、来てもらえるように約束した。

来てくれるか半信半疑だったけれど…もう、頼みの綱はこの人しかいない。




翌日、約束の時間。

美由紀さんは病院に現れた。


「ありがとうございます!お待ちしていました!」


本当に来てくれた。

正直、嬉しくて跳び上がりそうだった。

美由紀さんはオレの白衣姿を見て、目を丸くして言った。


「本当にお医者さんだったんですね」


やっぱり疑われてたのかよ!?

まぁいいけどさ…。


「驚かないでくださいね。今は人工呼吸器や色んな機械がついていますけど、水戸義之さんです。今が正念場ですから、声をかけてあげてください」


そう前置きしておいたけれど、美由紀さんにとっては、目を覆いたくなる現実。

昔愛し合った元夫は、動かなくなっていたのだから。

今日は日勤の里香がそばに寄ってきて、美由紀さんの背中をそっと押した。