「おはようございます!今日からお世話になりまっ…」

「道重くん、ネクタイ曲がってるよ~」


循環器内科の医局に到着早々、小柄な仏顔の先生につかまった。

たぶん、内科部長だった気がする。

名乗らなくても“道重”ってバレてるのは、親父が有名すぎるから。

ただ、それを重荷に思ったことはない。


「指導医は大屋先生ね」


そう言って紹介されたのは、無表情でパソコンを見つめている先生。

180cmほどある身長と細身な身体に、ピシッと糊のきいた白衣を羽織っている。

超真面目そう。


「…あの、大屋先生は不整脈が専門なんですよね?」

「……」

「最近のペースメーカーって通信機能もあるんですよね?この前の学会誌で読んで、すげーなぁって思って…」

「……」


無視かよ!?

仕方なくこれ以上話すのを諦めて、同期で入った他の3人の様子をうかがう。

みんな和気あいあいって感じ。

オレ、ハズレくじかよ~。

がっくりと肩を落とす。


「先生」


はっとして顔を上げると、大屋先生と目が合う。


「先生、ラウンドに行きますから、付いてきてください」

「あ、はいっ!」


はじめて“先生”って呼ばれた。

そうか…オレ、先生なのか…!

背中がムズムズする感覚。

白衣のえりを正しながら、急いで大屋先生のあとを追いかけた。