良い意味でも、悪い意味でも、村瀬先生は面倒見のいい放任主義だ。

突然現れてレクチャーしてくれたかと思ったら、気づけばもういなくなっていて、オレは一歩出遅れることが多い。


「道重先生、まだこんなところにいたんですか?」


放置されて病棟で残務整理していたら、看護師さんに言われて気づく。

…もしかして、もう始まっちゃった?


「2例目のオペ、先生入るんでしょ?もう患者さんはオペに出られましたけど?」

「マジすか!?」


前に行われるオペの進行によって時間が前後する“2例目”だとか“3例目”なんてオペは、油断すると置いて行かれてしまうんだ。


「遅くなりましたっ!!!」


走って到着したときにはオペ室の看護師は準備万端で、さっさとガウンをオレに着せる。

…間に合っ…てなかった…!


「道重~、おっそいよ。待ちくたびれた」

「すすすすみませっ…」

「もうセルフサービスで消毒終わっちゃったよ」


本来、この消化器外科の暗黙のルールとして下っ端の医者がやるべき“消毒”という作業を、執刀医の村瀬先生自らがやってしまっていた。


「…いつ1例目のオペが終わったんですか…!?だって、予定時間は3時間って…」

「甘いなぁ~。匂いでわかるだろ、早く終わるか終らないかなんてさ」

「すみません!修行が足りなくて全然鼻がききませんでしたっ!!」


そう言ったら、村瀬先生はニヤっと笑う。