花怜ちゃんは、自分がもう長くないことを知っていたんだ。


「リビング…?」

「日本語だと“尊厳死の宣言書”です。どう生きたいか、延命治療を望むかどうか、そういったことを重篤な状態になる前に書き残しておく書類なんです」


両親は信じられないという風な表情で、その手紙をまじまじと見つめている。

オレは震える声で言う。


「…書いた本人が15歳以上であれば法的な書類であると認められます。ですが、花怜ちゃんはまだ…まだ15歳ですから、ご両親の判断にお任せします…」


きっと、花怜ちゃん自身が調べて書いたんだろう。

書式も、署名も、捺印も、どこにも書き漏れが見当たらない。

もしもどこかに抜けがあれば、迷わずに延命処置をしただろう。

両親は泣き崩れた。

オレも泣きたかった。

なんでこんな大事な役回りをオレなんかに託したんだよ!?

1枚目はリビングウィル、あとの10枚は両親への手紙だった。

生きて欲しかったから、この手紙は無かったことにしたいと思った。

でも…やっぱり無視はできなかったんだ。


「…延命処置をさせてもらいましょうか?それとも…」


両親は言った。


「これがあの子の願いなら、もう結構です…ありがとうございました」


こんなに悲しい最後は初めてだった。