そして、一番予想外だったのは、花怜ちゃんの病気の進行が早すぎたことだ。

時は待ってくれなかった。


「花怜ちゃん、言葉が出にくくなってます。筆談でなんとかわかるんですけど、その筆談もいつまでできるか…」


担当看護師が花怜ちゃんとやっている交換ノートを見せてくれた。

始めのページと比べると、入院から2週間たった今の文字は、明らかに筆圧が薄い。

ここ数日はロレツが回らず、うまく話せない状況だった。


「…オレも書いていいですか?交換ノート」

「え??先生が??」


なんにもできない自分が唯一できるのは、それくらいしかなかったんだ。

ナースステーションの椅子に座って、いざペンをとってみるけど、何を書こうか迷う。

担当看護師が横からじっと見てくるのも、やけに緊張してしまうじゃないか。


“花怜ちゃんへ

 毎日ベッドの上で過ごすのにも

 飽きてきたんじゃない?

 もし天気がよかったら

 近くに散歩にでも行きませんか?

         研修医 道重空”


「え、デートのお誘いですか?ダイタン!」

「きゃー花怜ちゃん喜ぶと思うよー?」


気がついたら、周りを看護師たちに取り囲まれていた。

勘弁してくれ~っ!