蓮くんは無言の抵抗で、ちょっとでも触れば振り払う。


「そんなに採血きらい?」

「…だいっきらい!」

「じゃあさ、今度は先生が採血してあげる」

「せんせい失敗しない?」

「おう、これでも採血は得意だ」


蓮くんが微かに頷いた。

予想外に素直に採血させてくれることになって、ちょっと拍子抜けだ。


「痛くないからね!」


佐藤くんがそう言ってるけど、いや、普通に大人でも痛いから…。

チクリと針を刺すと、蓮くんの顔がゆがむ。


「…ぅ、う」


あ、泣く?

とっさに出た一言。


「蓮くん、ほら、悪いバイキンが出ていってるぞ!」


泣きかけた蓮くんは、はっとしたような顔でオレを見た。


「バイキンどこ?」

「この赤い血の中にいるバイキンを、先生が吸い取ってあげてるんだよ」

「そうなの??」

「そうそう!はい、終わり!」


オレは嘘つきな大人です…。

蓮くんはちょっと興奮した様子で、


「バイキン出て行った!?」


なんてはしゃいでる。

お母さんは笑ってるし、これはこれで成功か?