里香は言う。


「あれ?空くん子供好きって言ってなかった?」


仕事が早く終わったから、里香の家に愚痴を言いに来た。

もうストレス溜まりまくりで、ダイニングに座ったまま、里香を相手に不満をぶちまける。


「好きだったけど、もう嫌いだ!!小児科の医者もみんな笑ってんの。俺がジタバタしてんのを見て“あーあ、やっちゃったねぇ”って」


ドンっと音を立てて拳をテーブルに打ち付けた。


「珍しくイライラしてるのねぇ?」


里香は軽く受け流して、カウンターキッチンでコップを洗っている。

里香の凄いところは、オレが荒れても流されずに平然といるところ。

はいはい、それでどうしたの?って。

かんしゃくを起こしたオレをなだめてくれた母さんと似ている。

そんな里香と一緒にいると、いつの間にか怒りが収まってしまうのだ。


「ねぇ、空くんはなんで小児科を選択したの?」

「…子供が好きだから」

「じゃあ、自分の責任だね!小児が終わったら念願の外科ローテでしょ?がんばりなよ!」

「…う、うん…」


我ながら単純な男だよ。


「はい、充電してあげる」


洗い物を終えた里香の腕がオレに絡みついた。

キミってやつは…もしや聖母か!?