オレの両手にはキャラメルマキアート。


「失礼しまーす」


彼女の部屋に入ると、いつもと同じ光景。


「奈菜ちゃんさ、コーヒー飲める?」


そう声をかけたら、不思議そうな顔をしてる。

さっき大屋先生にそうされたように、奈菜ちゃんの手に押し込むようにしてタンブラーを手渡した。


「キャラメルマキアート、ミルク増し」


女の子は大体キャラメルマキアートが好きだっていうのがオレの恋愛バイブル。

例によって、里香もそうだし。

こういう状況で恋愛バイブルを持ちだすのもどうかって感じだけど、手段は選ばない。


「別にゴキゲンを取りに来たわけじゃないよ」


半分ウソだけどーっ…!

でも、これはちゃんとした診療のひとつ!


「お母さんは何て言ってる?手術しろって?」

「…したほうがいいんじゃない?って」

「そっか、そうなんだ」


奈菜ちゃんが答えてくれたことにホッとする。

視線は合わせてくれないけど~。


「今、なにが一番ツライ?」

「…なにって、何が一番か決められません」

「それくらいツライってことか」


オレもツライよ、毎日。

けど、そんなもんじゃないよなぁ。

人生かかってんだもん。


「…なにか力になりたいんだけど、何をしてあげたらいいかわかんなくて、それで今日は来たんだ」


奈菜ちゃんは何も言わなかった。

ただ、沈黙のなかでオレは喋り続けた。