腕時計の長針がぴったり一二を指した時、勿論、三回ノックは忘れない。

「失礼します」

 丁寧にドアを開けると、目に入るのは乱れた布団と、ベッドから落ちたと思われるリメルだった。

 布団に関してはともかく、リメルについてはさすがに呆れる。なぜならベッドから落ちているのにもかかわらず、全く起きる様子がない。

 センリは溜め息を吐き、床に寝転がっているリメルに近付いた。

「お嬢様、朝ですよ」

 耳元でそっと囁くと、くすぐったそうな反応をし、よく分からない寝言らしき事を呟いた。

「ん……なぁ、ず」

「起きて下さい、お嬢様。起きないと今日のティータイムはなくなりますよ」

「それは……駄目だ」

 ティータイムという単語に反応して、リメルことリメル・アルビスは起き上がった。

「おはようございます。では私はちょっとした後片付けがありますので、失礼します」

「何だ、僕が寝ている間にまた何かやらかしたのか」

「ちょっとした“虫”が入って来ましてね。少々部屋が汚れてしまったので」

 センリは窓に目を向ける。

「そうか……」

 同じようにリメルもその視線を追って、窓に目を向ける。

「では、失礼します」

 そう言ってセンリは、リメルの部屋を後にした。

 長い廊下の割れた沢山の窓ガラスの間を歩くセンリは、美しい絵になりそうだった。