ここは、島で一番大きな権力を持つと言われるアルビス家。

 今日もアルビス家は平和……だ。

「ウォォォォ!」

 物凄い雄叫びと共に、屋敷中のガラスが一瞬にして割れ、飛び散った。

「ガルルッ……」

 その飛び散ったガラスの破片の上に立つ、いシルエットは、悪魔。

 まぁ、悪魔とはいえど、一番弱い下級悪魔なのだが。

「やれやれ……またですか」

 悪魔の後ろから呆れ返ったような声。その声の主は、この屋敷の専属の執事であるセンリのものであった。

「静かにしてもらわないと困るんですよ。お嬢様が起きてしまう」

 壁に寄り掛かって余裕の表情で言うセンリに、悪魔は激怒した。

「グオオオオッ!」

 センリの頭を掴みに掛かるが、呆気なく食い止められてしまう。しかも、片手で。

「グルァァァァ!」

 まるで馬鹿にされているかのように、それは一切動かなかった。それでも尚、悪魔は暴れ続ける。それを見て、センリは溜め息を吐く。

「往生際が悪いですね……」

 センリのもう片方の手がポケットから“悪霊退散”と書かれたお札を取り出し、それを瞬時に悪魔の頭に投げ付けた。

「グオオオオ……! ガルルッ……ガルル……」

 すると驚いたことに悪魔は白い煙となり、割れた窓から出て行った。

「ふぅ、片付きましたか。全く困りますね毎日毎日……」

 そう言ってセンリは、悪魔が出て行った窓に目をやる。

「彼女から預かったものが、役に立ちましたね」

 そう、今センリが悪魔に向かって投げ付けたお札は、ある人物からの貰い物。

「おや、そろそろお時間ですね」

 腕時計を確認すると、センリは澄ました顔をして部屋を出た。

 その様子を、割れた窓の外から一羽の鳩が見ていた。