金澤君の笑顔が脳裏に浮かぶ。嗚呼、いつ見てもやっぱり王子様だと思う。この笑顔に惚れない女の子はいないだろう。

「千尋!」

「えっ?」

 ハッとすると、目の前は真っ暗だった。そして地味に襲って来る顔の痛み。これは多分、ボールが顔面に当たったせい。

「もう、千尋また金澤君の事考えてたんでしょ」

「そっ……そんな事ないもん」

「顔真っ赤。分かりやすすぎ」

 そう言って私をからかって来るこの女の子は、知花未穂。私の恋を応援してくれる大切な親友。

「チヒロ、大丈夫? 鼻から赤いの、出てない?」

「あ、シュナ。大丈夫だよ、出てないから」

「本当? 良かった。シュナ、とても心配した」

「心配掛けてごめんね。もう大丈夫だから」

 片言な日本語を話すこの子は、シュナ・ガブリーニ。つい二年前に日本に来たばかりで、まだ完璧には日本語を話せないが、私の大切な親友だ。

「そういえば、シュウヤがチヒロの事心配してた」

「え、金澤君が?」

「うん。チヒロの顔にボール当たったの言ったら、凄く心配してる顔してた」

「それが本当なら、私今ここで死ねる」

「死んだら金澤君に会えないよ」

 あ、それは困る。金澤君に会えないとか、それはもう地獄。いや、それより酷い生き地獄だな。

「それだけは勘弁かな」

「そうだよね、千尋は金澤君命だもんね」

「え? チヒロの命ってシュウヤなの?」

「シュナ、何か勘違いしてる」

 私は金澤君命であって、金澤君が命な訳ではない。まぁ、当たり前だが。

 そう、金澤君は本当にかっこいいんだ。かっこいいだけじゃなく、優しいし、周りに気配りが出来るし、何より笑顔が凄い。彼の笑顔は周りの人を笑顔にする力があるのかもしれない。この間なんか、金澤君の笑顔を間近で見た女の子が、鼻血吹いて倒れたし。

「もしもし千尋? また金澤君の事考えてるよ、この子は……」

「本当、チヒロはシュウヤが好きだね」

 二人に見守られながら、千尋はポッと赤く染まった頬を緩ませ、幸せそうに笑いながら(ニヤニヤと言うべきなのだろうか)妄想タイムに突入していた。