翠さんは茫然と立ち尽くしている。

「翠さんになにをしたんだ!」

おやじは違うことを言う。

「彼女にあったら逃げなさい。」

彼女?

「彼女って…?あの女の幽霊か?」

急に翠さんが声を出す。

「…岡本さんよ」

「…は」

「彼女、が…如月くんを…」

翠さんの様子は少しおかしかった。

「岡本さんが如月くんを殺したんだわ…」

「な、んで…だって、あいつは奏太のこと…」

「…助けないと…」
翠さんはふらりと歩き出した。

「翠さ…」

「助けてくれって頼まれたんだから…」
翠さんは音楽室から出て行こうとする。
「待ちなさい」

翠さんがピタリと止まり、首だけで振り向く。

「ひとりになってはいけない。ここでは、まずひとりになったものが狙われる…」

俺は今までを思い出した。

ひとりで死んでいた眞埜硲 凜。

ひとりになった途端に襲われた翠さん。
几亥谷と分かれた後に殺された武藤 藍。
おそらく、城崎も…


だけど、ひとつだけおかしなところがある。

職員室で、俺は翠さんと一緒にいたのに翠さんは襲われた。
「だけど俺、ふたりだったときも襲われたぜ?」

「…塩」

「は?」

「塩を、持っていただろう?それによってあいつには見えんかったんだ」


今まで黙っていた翠さんが急にしゃべり出す。

「はやく…行かないと…几亥谷さんと岡本さんが」

そうだ。その二人は今、ひとりになっている。

「あ、あぁ。はやく行こう」

「校長室と美術室に保健室」

「「?」」

「そこに、鍵が…」
おやじは深呼吸らしきものをする。

「…私も…もう、休む…。…負けるんじゃな………」

「「!?」」


おやじは消えた。


「…翠さん、とりあえず、どこから行きますか?」

「…美術室、保健室、校長室の順が一番効率がいいわ。…ねぇ、進藤くん…」

「はい?」

「その小箱の中には、何が入ってたの?」

「あ」

俺はあわてて小箱を開けようとする。が、ひらかない。鍵がかかっている。

「これ、鍵がかかっていますよ…」

「几亥谷さんにもらった鍵でも開かない?」

俺はハッとして几亥谷にもらった鍵を取り出す。

カチャリという鍵の回る音が響く。

俺は小箱をひらき、中のものを取り出した。