〈みゆきと恵美〉

「でられないって…そんな…」

私は恵美の言っていることが信じられなかった。

「事務室前玄関は開いてたんだよ?そこに行けば…」

私は事務室の方へと歩き出した。

「あっ…」

女の人が、こちらを向いている。

「あの、ごめんなさい。今から帰ろうと…」

後ろから手を捕まれて、強く引っ張られた。

「っ!」

そして、恵美は私の腕をつかんだまま走り出す。

「ちょっ、恵美!?」
「今のは、幽霊だよ」

「え?」

幽霊だなんて…走りながら後ろを向くと、さっきの女の人は、ゆっくりに見えてはやいスピードでわたしたちを追っている。

「…ひ」

本当に、幽霊なのだろうか…?

後ろからぺたぺたと音がする。

三階まで上って渡り廊下を渡り踊場についたとき、唐突に音がやんだ。

私は足を止める。

階段を降りる勇気はない。でも、どうしても四階に行くのは怖い。なにかいやな予感がする。

階段の踊場から、四階を覗く。

一瞬、用務員らしきおじさんが四階にいたように見えた。

「はやくしないと捕まる!」

恵美はそう言って四階へと飛び出した。
「待っ…」

さっきのおじさんが悲しい顔で首をふっていた。まるで、こっちはダメだと言わんばかりに…

「みゆきーはやくー!」

恵美が四階で私を呼んでいる。大丈夫だったらしい。でも、この感じは一体…?

私が恵美の横に来たときに、何かが突っ込んできた。

「ぐぁっ!」

その何かは、恵美に当たり、跳ね返された。


「どこから出てきた?」

女の幽霊はそう言う。

「な、に…?」

私は恵美をみる。

「どっちのこと?」
恵美が幽霊に一歩近づくと、幽霊は消えた。

「え。な、に…?今の…」

「みゆき」

「っ!」

そこには、冷たい笑みを浮かべた、恵美がいた。

「私、一人で行くから…」

恵美はふらりと歩き出す。

「え、み…?」

私は恵美の後を追う。

「ついてこないでっ!」

「っ…」

考え抜いて、私はさっきの用務員らしきおじさんが歩いていった後を追うことにした。