俺たちは、理科室を目指した。

「だれか…だして…狭いよぉ…」

「この声は化学準備室から聞こえる。でも、鍵がかかっているのか開かないの」
「理科室からならいけるかもしれない」
理科室から化学準備室へ行くドアがある。俺は理科室のドアに手をかける。案の定、理科室のドアは簡単に開いた。

「俺、ちょっと行ってくるから翠さんはここで待ってて」

俺が理科室に入ると、翠さんもさっと入ってきた。

「翠さ…」

「だって、進藤くんひとりじゃあぶないし、私一人じゃ…怖いもの」

そう言われてはなにも言い返せまい。

理科室のなかは、ホルマリン漬けにされた蛙やらなんやらが光っているような気がする。

「…やっべ。怪談で理科室とか超死亡フラグじゃん」

「ふざけないで!」
「わ、わるい」

「だれか…だして…ぅぅ…如月くん…会いたいよ…ぅ、っくっひ…う゛ぅ…」

声はまるで赤子のように泣き始めた。

「は、はやく行きましょうっ」

「あ、あぁ」

化学準備室のドアは開いていた。

化学準備室のドアを開けた途端に、あれほどうるさかった声は唐突に止まった。いや、消えた。

いやな予感がする。
「翠さん、ドアのそばにいて、ドアを押さえてて!!」

「で、も…」

「ドアが急に閉まって開かなくなったら危険だ」

「わ、わかった」

翠さんも、この得体の知れないヤバい雰囲気を感じたのかもしれない。すぐに納得してくれたようだ。

すこし歩いたところに血が垂れていたあとがあった。俺は血の筋を辿って棚の中を見た。

「っひ!」

「どうしたの!?進藤くん?」

「だ、だいじょうぶ!それより、絶対、そこから動くな」

「そ、そう?わかった」

棚の中には、眞埜硲の頭が押し詰められていた。さっきからの声の正体は…

「…奏太じゃなくて、ごめんな。」

俺は呟いた。

「ん?どうしたの?」

ふと隣の棚を見ると、中に『NaCl』と書かかれた小瓶がある。

…塩化ナトリウム

「いや、ちょっと…」

俺は塩の瓶をポケットに入れた。

「翠さん、理科室の方を見張っててもらえないか?」

「え?あ。うん。わかった」

翠さんが理科室のほうを向いたのを確認してから、俺は眞埜硲を棚からだして近くの机に置いた。

「すまない。ここに置いておく…」

それにしても、一体誰がこんな事を…さっきまでは廊下にいたのに…

手が血まみれの人体模型に目がいった