「で、お前の名前は?」
「えっ?」
「“えっ?”じゃねぇよ!人の名前を聞いといて、自分だけ名乗らないなんて卑怯だぞ」
私から名前を聞いたわけじゃなく、アナタが勝手に……。
「早く教えろって!」
もう、会うこともない人だけど……。
「水沢、日和(ミズサワ ヒヨリ)……」
彼に名前を教えた。
「ふーん、水沢日和ね。覚えとく。日曜日にさ、ここの502号室でやってるから……。じゃあね、日和ちゃん」
“ドクン――”
彼に名前を呼ばれて胸が高鳴る。
彼はそう言って、手を軽く上げて、私の横を通り過ぎた。
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