先生の車がアパートの前に着いた。
「先生?今日は、本当にありがとうございました……」
「あ、うん……」
帰りたくない。
帰ったら……。
でもワガママ言って、先生を困らせたくない。
「明日、待ってるからな」
先生はそう言って、私の頭を撫でてくれた。
それが、なぜか虚しくて……。
私は何も言わず“コクン”と頷いた。
涙が頬を伝う。
それを先生に見られないように、シートベルトを外して車から降りた。
「じゃあな、日和」
助手席の窓が開けられ、そこから覗きこむように私の方を見て先生はそう言った。
「さようなら……」
小さい声でそう言った私。
助手席の窓が閉まり、先生の車が走り出す。
楽しかった魔法が解けたように、私の心は悲しさだけが残った。
アパートに向けて、1歩を踏み出す。
私は、地獄が待っている我が家へ足を進めた……。