お爺ちゃんにばいばいすると、家を目指してペダルを進めた。
行くとき目に付かなかった一本の桜の木が目に入った。
茶色い木に数十個の桜が綺麗な花を咲かせている。
もうすぐ、春休みだもんね。
桜の小さな花を見るだけで、人々に春を感じさせるなんて凄いなと思う。
──春休みが終わったら、綺麗にピンク色に染まるんだろうな。
完全に上の空の私は、一瞬の出来事など考えもしなかった。
「あ」
そう小さく声を上げたときには、寝ている猫が目の前にいた。
寝ているのか、目の前に来る障害物に気付いていない。
……危ない!
咄嗟に急ブレーキをかけて右にへとサドルを曲げた。
「わっ、どうしよ、きゃあ!!」
ガシャンとバウンドした自転車。
その音に猫は、逆毛を立てて一目さんに逃げていく。
避けれたのは良かったけど、それに乗っていた野菜が道路へと見事にちらばった。
……せっかくのお爺ちゃんの野菜が。
早く拾わなきゃと、立ち上がろうとしたとき膝に痛みが走った。
「い、いたぁい……」
「大丈夫ですか?」
派手に転んでコンクリートの上で倒れている私の上に大きな影が出来た。
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