初登校初日から堂々と自主早退するのはさすがにマズイかなー、とか一応少しは考えたもののそんな事は五分で忘れ、康史にもう帰るとだけメールし歩く帰路の途中。歩道の脇に横付けされた、明らかに近寄りがたいオーラを放っているフルスモー クの黒塗りの高級車を見つけ私は瞳を見開く。見覚えのあるその車に、一瞬足が止まるが勘違いかもしれない淡い期待を込めてそのままその横を通りすぎると、ドアが開き艶のある低い声が優しく私の名前を呼んだ。

「冬華」

呼ばれた声に立ち止まり、振り返った私を捉えたのは綺麗にセットされた黒髪を後ろへと流し、仕立ての良いダークグレーのスーツを着こなした男。

「…蓮(レン)」

「帰るんだろう、送っていく」

「どうしたの、急に。蓮は今色々と忙しそうだ、って康史から聞いてたんだけど」

「お前が気にする程じゃない、大丈夫だ。早く乗れ」

少々こちらを無視した強引な台詞にも聞こえるが、それは今に始まった事じゃないと知っている私は、素直に従い後部座席へ乗り込む。すると、続くように蓮も隣へと乗り込み扉が閉まると、静かに車は走り出した。